「2008年下半期ライトノベルサイト杯」に投票する。
選考基準として、自分”は”面白かった作品という縛りを設けた。自分が投票しなくても、上位に食い込みそうな作品はとりあえず省き、あまり投票されない(と思われる)作品に投じる。そんなことをやって省いた作品がまったく投票されないと言うことも考えられるが、それもまた投票の醍醐味であろう。もっとも途中経過などはまったく見ていないので、まったく見当違いなことを言っている可能性がある。どうでもいいよね。
前置きが長くなったが、以下に作品をあげる。
【新規部門】
【08下期ラノベ投票/新規/9784797349160】
『晴れた空にくじら 浮船乗りと少女』(大西科学/GA文庫)
冒険小説でありSFでもある作品。とぼけた主人公や浮珠の設定など美点は多いが、設定に捕らわれすぎない闊達さが大きな魅力。ライトノベルではるがSFとしても作りこまれているので、地に足のついた描写がある。
【08下期ラノベ投票/新規/9784840124294】
『ラノベ部
』(平坂読/MF文庫J)
ゆるゆる部活ストーリー。ネタ小説だがネタを知らなくても十分面白い、ある種理想のネタ小説。ライトノベル入門書という言い方をされることが多いが、実はあまり初心者向けではないと言うところは注意が必要。さりげなく、読書に対する登場人物それぞれのスタンスなどの描写が繊細で、細部まで神経の行き届いた丁寧な作品。作者の新たな可能性に驚かされる。
【08下期ラノベ投票/新規/9784094511017】
『幽式
』(一肇/ガガガ文庫)
青春ホラーの傑作。およそ、ライトノベルとして書かれたホラーの中で、これほどまでに妖異と怪異、人間の持つ闇を掘り下げた作品は多くはあるまい。恐怖とは未知なるものとの関わりが深く、この世でもっとも未知なるものとは、人間の持つ闇。その闇の正体がわからぬがゆえに、人は畏れ、あるいは惹きつけられる。彼岸と此岸の境目にある、幽かなる領域とは、まさにその闇の中にあるのだ。
【08下期ラノベ投票/新規/9784094511031】
『此よりは荒野 Gunning for Nosferatus(1)』(水無神和宏/ガガガ文庫)
正調。表現するならばまさにこの表現がふさわしい。強さに対する灼熱のごとき渇望を抱えながら、自分の無力さに打ちひしがれる少年の葛藤を、真っ向から描いた意欲作。無力さに対する克己をきちんと描いているので、暗黒ファンタジーと言ってよい舞台設定ながら、爽やかさをまとっている。西部劇+ファンタジーという舞台設定に惹かれる方もどうぞ。
【08下期ラノベ投票/新規/9784048673549】
『機械じかけの竜と偽りの王子
』(安彦薫/電撃文庫)
本格的な群像劇、大河ファンタジー。ライトノベルとしても良く出来ているし、群像劇としても良く出来ているのだが、これが新人の作品と言うところが驚き。今後の期待も込めてオススメしておく。
【既存部門】
【08下期ラノベ投票/既存/9784775806760】
『マーベラス・ツインズ契(4)貴公子の涙
』(古龍/ゲームシティ文庫)
武侠小説と言うジャンルは、存外ライトノベルに近しいジャンルなのだが、未だにライトノベル界隈では読まれていないようだ。実際には波乱万丈にもほどがある展開に、強烈に立ったあくの強いキャラクター、魅力的な主人公と、非の打ち所のないエンターテインメントである。先入観を取っ払って、新たな世界を覗いてみるのはいかがか。
【08下期ラノベ投票/既存/9784840123662】
『七本腕のジェシカⅡ
』(木村航/MF文庫J)
木村航らしい情念溢れるひりついたストーリーに、問答無用で叩き込まれる汎不死社会という異形の社会。読者に説明らしい説明をまったくせず、ノンストップで異世界でのボーイミーツガールが疾走する。万人にオススメとは言いかねるが、異世界に耽溺したいという方は是非。2巻で完結と言うまとまりの良さも良好。
【08下期ラノベ投票/既存/9784758040471】
『ANGEL+DIVE 3.LOVENDER
』(十文字青/一迅社文庫)
薔薇のマリアもいいけど、あえてこっちをあげる。伝奇にしてリリカル。暗く冷たく優しく残酷な物語。乾いているのに情緒的とも言えるリリカルさを持っているのがすごい。まだあまり上手く言語化出来ない。
【08下期ラノベ投票/既存/9784086012393】
『アンゲルゼ 永遠の君に誓う
』(須賀しのぶ/コバルト文庫)
ある意味、戦闘美少女セカイ系に対する作者の回答とも言える作品。『イリヤの空、UFOの夏』(の系統の作品)に対するカウンター。本来、全5巻のところを打ち切りで4巻になってしまったらしいのだが、まあコバルト文庫の購買層からすると無理も無いのか。そう思えるほどにコバルト文庫としては異端とも言える残酷で、それでいて力強い物語。少年の少女の恋は、”セカイ”を救うことは出来ないのだが、それでもそれを信じることは出来る。
【08下期ラノベ投票/既存/9784044267117】
『円環少女 (9)公館陥落
』
テロと核。ライトノベルでそれをここまで執拗に描く作品は他に無いだろう。これほどまでに多彩な登場人物の陰影を描く作品も多くはあるまい。決して正しいことだけを出来ない、むしろ積極的に悪をなす必要さえある”社会”という化物に対して、必死に抗う人間の姿は、感動的ですらある。
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