« 買ったもの | トップページ | 『薔薇色にチェリースカ(5)』読了 »

2008.12.21

『真っ黒焦げの凶暴なウサギ』読了

51hfnwni2bzl

真っ黒焦げの凶暴なウサギ』(和智正喜/メガミ文庫)読了。

主人公に対するイジメの陰湿さに圧倒される。彼に対する悪意の出口の無い残酷さ。教師の一人よがりで独善的な思考は、戯画的ではあるがどこか嫌なリアリティがあっておぞましい。主人公はそのイジメに対してただ恐怖し身をすくませるしかないわけだが、他者から悪意を受けることの恐怖と言うのは、本当に恐ろしいもので、それに対抗できない主人公を責めることはできない。他者の悪意をまともに受け止めてしまうことは、それほどの傷を人間に与える。悪意をやり過ごすことが出来ないのは、決して弱いからではない。悪意に真正面から受け止めてしまう不器用さと、繊細さの現れだ。それを”弱さ”の一言で片付けてしまうことのどれだか単純で愚かなことか、実は分かっていない人がこの世には本当にいることが恐ろしいことである。そんな不器用さを抱えた主人公が、”うさぎ”と出会うことで超人たちの戦いに巻き込まれてしまうのだが、主人公が力を手に入れたとしても、その力に溺れようとしないところは、前半の繊細さからうまく引っ張ってきたきたと思う。暴力に対して暴力で抵抗しようとする人間にはない心が、彼にはある。だから彼が戦いを決意することのきっかけは、誰かを守りたいという気持ちなのだが、その思いはどうあっても報われることがない、と言うことを主人公自身が早いうちに気がついてしまっていることにも注目する点だ。彼女は彼のことを好きになるという。それはあまりにも空疎な言葉だ。その言葉を向けられた少年はただ涙を流す。嬉しいからではない。少女は心から言っているのだが、それがゆえにその言葉は嘘であることを、ことごとく感得しているからこそ、その思いが”ほんとう”になる日はこないということを知ってしまっている。それでもなお、少年は立ち向かうのだし、最後は、少女を遠ざけることにもつながっている。最初から報いを求めない、救いも求めないヒーローを体現したこの作品は、まぎれもなくダークヒーローの系譜の物語であろうと思うのだ。

|

« 買ったもの | トップページ | 『薔薇色にチェリースカ(5)』読了 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29313/43473757

この記事へのトラックバック一覧です: 『真っ黒焦げの凶暴なウサギ』読了:

« 買ったもの | トップページ | 『薔薇色にチェリースカ(5)』読了 »