« アニメのことなど | トップページ | 勝ったもの »

2008.12.04

『ダブルブリッド Drop Blood』読了

51mwaicbjal

ダブルブリッド Drop Blood』(中村恵里加/電撃文庫)読了。

ダブルブリットの外伝にして短編集にして最終巻。なんとも言葉が出てこない。実のところ、このシリーズは、とりわけ初期はキャラクターを苦境に陥らせるためだけの展開のように思えてそれほど良い印象はなかったのだが、エンターテインメントとしてはバランスを崩しかけるほどにキャラクターを追い詰めながら、ギリギリでエンタメとして踏みとどまったところは見事と言うほかない。それは、手加減しているわけではない。徹底的に主人公たちを追い詰めながら、それでもなお希望が失われない。その強さ、と言うよりも、作品の持つしなやかさが、シリーズ後半に向かうにつれて浮き彫りになってきたように思う。キャラに苦境に陥らせるためだけの苦境描写と言う点は最後まで感じたものの、その描写を最後まで一環して保ちつつけ、見事に物語を収めたことを評価するべきだろう。容易い道に流されない、書くほうこそ擦り切れるような執筆であっただろうことは想像に難くないが、まあ読者の勝手な妄想かも。なにはともあれお疲れ様でした。

以下各話感想。

「Dead or Alive」
大田真章ことシームルグのひたすら延々と語られる一人の男の生と死の話。徹底して迂遠に、無意味に大仰に、あくまで饒舌に語る彼の言葉は、人間の生と死というものに対する”意味”を剥奪する。彼は意味を語らない。すべての価値を無意味とするために語るのだ。そこには生も幸福も死も不幸もあるが、それはただそれだけのこと。生きることに意味などないし、死ぬことにも意味はない。彼が語る”意味”があるとすれば、それだけなのだろう。

「Momentary Happiness」
虎司と安藤の日常話。この二人はおそらく希望を象徴している。アヤカシと人間の、少年と少女の。それは決して容易い道ではないはずだ。苦痛と困難と不条理が待ち受けているはずの道だ。それでもなお。それでもなお、二人の”今”は輝いている。今この瞬間の輝きは、たしかにあった。たとえこれから先になにがあろうとも、それは否定出来ないし、されるものではないはずだ。それははかないものかもしれないけれども、祈ることぐらいは許されるだろう。

「汝の隣人は燃えているか」
帆村香純とはいかなる隣人であるか。ふつうより綺麗で、ふつうよりかっこ良く、ふつうより変わった隣人である。彼女はいつも飄々として、上品で、変わり者で、他人の興味を引く。彼女はだれよりも自由で、おおらかだ。けれども、雨の日の彼女はちょっと違った。哀しいが分からないという。寂しいを知らなかったと言う。そういう彼女はいつも通りに笑うけれども、その笑いこそが何よりも哀しいということを彼女は知らない。彼女は、遠くない未来に、それを知るのだ。

「こどもらしくないこどものはなし」
一度したことは取り返しのつかない、と言う話。彼女は救ったのにそれでも報われない、という話。

「こどもらしくないこどもにすくわれたはなし」
もしかしたら彼女を救うことが出来たのではないか、と言う話。それでも救うことが出来なかった話。

「こどもらしくないこどもとぶこつなおにのはなし」
それでも彼女には愛してくれるひとがいた、という話。それでも彼女の心は癒せなかった、と言う話。優樹が、それでも、人間を信じることをやめなかった、という話でもある。

「続いた世界のある顛末」
後日談ではあるが、そこに結末はない。であるから顛末。なにかが始まったのかもしれないし、なにかが終わったのかもしれない。あるいは何かが続いているのかもしれない。だが、生きていくという行為は、途切れることなく続く。そこには決着はない。納得もない。ただ、今を行き続けることを確認することだけ。

それだけが、唯一我々に出来ることなのだ。

|

« アニメのことなど | トップページ | 勝ったもの »

コメント

この物語がこんなに救われた話になるとは思わなかった。
バットエンドで終わりそうだけどなんとか幸せになって欲しいと思っていたけど
上手く幸せにするよりもずっといい終わりだったかもしれない。
まぁあそこまで苦境に陥らせまくっていたらご都合主義でもしない限りはハッピーエンドはムリだったというだけかもしれないですけど。
決して蛇足ではない本編の終わりを汚さない、いい外伝だったと感じました。

投稿: HT | 2008.12.05 07:23

個人的にあの終わり方は正しいけれどもひどい終わり方だな、と思います。彼女自身は納得しているとはいえ、彼女にとれる選択肢は多くなかったわけで。まあ、だからこそ”正しい”展開をするのなら、これ以上の結末を望むべきではないのでしょうが。その選択を強いる世界(=作者)は厳しい。だからこそ良い作品になったのだと思います。

投稿: 吉兆 | 2008.12.05 20:32

とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!

投稿: 履歴書の書き方 | 2013.05.17 16:04

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29313/43319316

この記事へのトラックバック一覧です: 『ダブルブリッド Drop Blood』読了:

« アニメのことなど | トップページ | 勝ったもの »