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2008.12.30

『円環少女(9) 公館陥落』読了

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円環少女(9) 公館陥落』(長谷敏司/角川スニーカー文庫)読了。

核と現代について言及し始めた6巻あたりから上がってきたテンションが9巻でさらに頂点へ。毎回凄まじい密度で語りながら、物語が進むにつれてさらに密度を増していくあたりが凄まじい。圧倒的密度で語られる魔術師たちの物語が、きちんと現代を生きるものたちとドラマにリンクしていて、明らかに主人公である仁の物語から逸脱し、それ以上のものに昇華されている。単に魅力的とだけでは言い表せない陰影を持った登場人物たちの、それぞれの葛藤に満ちたドラマ、と言うだけではなく、人が生きる上でなされる悪を如何に受け止めていくかという物語にまで到達している。シリーズを通じて、もっとも覚悟が出来ていない主人公の仁が、ついにそのツケを支払わされると同時に、覚悟を決められない自分自身とはいかなる人間であるのかと言うことを知り、自分の本当の望みを自覚する物語につながっている。それは生きるということの独善的な、恣意的な悪のありようであり、彼がいままで処断してきたものたちと何一つ変わらない”悪”そのものであることをついに受け入れることになる(読者としては、仁のやっていることが、恣意的で身勝手なことだということなのは一目瞭然なのだが、それは客観として捉えているからであって、本人の主観から見ればまた異なるものが見えているのだ)。”悪”を受け入れた仁は、ついに本当の意味で”世界”と戦うことになる。セカイではなく世界。地に足をつけて、自分の生きる場所を見定め、それを獲得しようとする戦いだ。それはいままでの魔術バトルとは異なる、しかし、困難さでは変わることの無い戦いである。その戦いを受け入れた仁の成長に深く関わったのが、東郷という彼の師匠の存在であることは忘れることが出来ない。今巻での鮮烈な生き様は読者のすべてに深く印象を与えるものであろうと思うが、何より、他のいかなる手段を絶たれながらも、その中で最良を選択肢を選び、鋼の意思で遂行し続けたその精神こそ讃えるべきか。組織の論理にその生死を左右されながらも、個人として気高くあり続けた。道具にされ続けたものたちの悲哀を一身に背負い、一矢を報いた。そのありようこそが、仁に与えられたもっとも大きな遺産であろうと思われる。彼は使い潰されたものたちの魂を背負い、当たり前の日常を、”世界を守る”ための戦いを続けていくのだ。ただ感動したとしかいえない、そんな作品だった。

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コメント

東郷、とんでもねー格好よさでした…
台詞の一つ一つに痺れるほど。
仁が作ろうと決心したものと、ワイズマンとがどうなるのか非常に気になります。
しかしこの作者の作るキャラクターは素晴らしいですね。オルガとかオルガとかオルガとかオル(ry

投稿: meganegane | 2008.12.31 02:01

東郷の格好良さ、と言うのはある意味で滅びの美学とも言えるものですが、滅ぶ覚悟を決めた者だからこそ言える言葉が迸っていますね。口数の多い人物ではない分、余計にそれを感じます。師匠の後を受け継いだ仁の戦いはどこに向かっていくのでしょうね。

>オルガとかオルガとかオルガとかオル(ry

喋るうんこにさえ礼儀正しく接する彼女は間違いなく聖女かなにかでしょうね。ただのマゾ…いや、被虐体質(同じだ)ではない…のかなあ…。

投稿: 吉兆 | 2008.12.31 09:42

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