« 最近のアニメ | トップページ | 『創世の契約4 巡歴者<ゲイザーシャフト>』読了 »

2008.07.23

『死図眼のイタカ』読了

51pkdgif4rl__ss500_

死図眼のイタカ 』(杉井光/一迅社文庫)読了。

残酷にして無残な杉井光だった。冒頭から重苦しい伝統的なしきたりに支配された旧家、朽葉嶺家のおどろおどろしくも妖美な雰囲気に満ちていて、魅了される。当主にして主人公の義母にあたる女性の、美しくもおぞましさを秘めた姿は、これこそ伝奇推理、と感嘆するのみである。

ところが一方で、四人姉妹と許婚と言う主人公の立場とか、あまりにもキャラクタナイズされた(また適当に言葉を使っているよ…)(うるさいな)姉妹たちの、まあようするに、それなんてエロゲ、みたいなキャラ設定とか、なんか杉井光は本当にわけわかんねーもんを書くな、と思った。

タイトルにもなっている”イタカ”と、文字通り一心同体である”藤咲”がメインヒロインとなっているのだが、このイタカも、いわゆる陰陽道を近代的に体系化しなおした術を使うわけだけど、このあたりの設定の作り込みも、単なる異能ものを超えた本格的なもので感心した。

さて、こうやって書いてみると、この作品を構成する要素がどれだけさまざまなものでつぎはぎにされているのか分かる。それも、どの欠片も、相当に本格的に設定がなされており、ここに杉井光の世界とでも言う他無いものが形成されている。杉井光は、極めて優れたアレンジメントの手腕を持っており、アレンジすることで新しい何かを生み出す稀有な能力を持った作家である、と思うのだった。

さて、内容の話。

まさしく、残酷と言う他ない内容だった。残酷と言うか、無残と言うか…。物語としては、旧家で突然起こった猟奇殺人事件を前に、主人公が自分の家族を守るために事件を追う、と言うストーリーラインこそ普通に始まるものの、物語が進むうちに、どんどん嫌な予感が膨れ上がっていくこの感覚。途中でひょっとしてと思いつつ、もしその想像が当たっていたとしたら、主人公は、そしてイタカの運命はあまりにもひどすぎることになる。ここまで読者に推理が的中して欲しくないと思わせる推理ものもそう多くは無いと思わされた。これはネタバレになってしまうのだが、なぜなら「犯人」の動機は、ライトノベル的な異能ものとしては実は珍しくないからだ。いや、珍しくないと言うか…その、普通、なんだよな。他のライトノベルだったら、陰陽道ものだったらいくらでもやっていることなのである(うーん、我ながらすごいネタバレだ。動機をすべて語ってしまった)。だからこそ、残酷さが際立つ。生きるために他者を犠牲する”化け物”。そんな存在がいたとして、人間はそれをどうするのか。主人公の大切なものと、出会ってしまったイタカと”藤咲”。それぞれの行動の真意が明かされるラストの凄絶さは、予想通りの、最悪の結末だった。予想通りであるからこそ、最悪の結末。主人公は結局何一つ守ることは出来なかったのだ。それでも、残酷な現実を受け入れて、その上で自分が大切なもの守る事を誓った主人公の存在が、残酷さが支配するこの物語を、どこか救いのあるものにしているように思え、すごくホッとさせられるのだった。許す、と言う選択を出来た主人公の壮絶な決意は、この物語の中で、一際強く、輝いている。

|

« 最近のアニメ | トップページ | 『創世の契約4 巡歴者<ゲイザーシャフト>』読了 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/29313/41325537

この記事へのトラックバック一覧です: 『死図眼のイタカ』読了:

« 最近のアニメ | トップページ | 『創世の契約4 巡歴者<ゲイザーシャフト>』読了 »