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2008.07.15

『ベン・トー サバの味噌煮290円』読了

51jtfvc9xol__ss500_ベン・トー サバの味噌煮290円』(アサウラ/スーパーダッシュ文庫)読了。

ああ…作者は頭が気の毒な人なんだな…と言うのが第一印象だった。コメディを書け、と編集に言われて出てきたのがこれかよ!明らかにおかしいよ!特に石岡くんに対して嘔吐をもよおすごとき悪意を感じるのだが、これは一体…。作家と言うのは悪意で営める職業と言うのは本当ですね(引きつった笑顔で)。

あと、おそらくは作者としてはギャグとしてやっているであろう部分のセンスがいちいちおかしい。おかしいといっても可笑しいわけではなく、ただ頭がおかし・・・いや気の毒なようだ。白梅の白粉(どっちも人名ですよ)に対する執着はもはやストーカーに等しく、人格の破綻ぶりは理屈では説明しきれぬ。白梅の家に監禁された白粉が、相手がトイレに行っているうちにメールを出しているなんて、お前はミザリーか!笑えねえよ!!

さて、こういった作者の悪意的な分野に着目していると話がいっこうに進まないので、それ以外の部分にも言及しなくては、などとわざとらしく話題を変えてみるけど、これが驚くほどまっすぐで爽快な話になっていて驚いた。まあ半額弁当をめぐって繰り広げられるバトルと言うありえない状況設定なのだけど、面白いことに前述のありえないキャラクター、状況、何よりも特異なギャグセンス(笑えない)が前提とあるためか、最初こそ戸惑うものの、読み進めていくうちに、己の信念と誇りを胸に戦いに挑む人々を熱い筆致で描いており、ページを捲る手が止まらなくなってくる。ひょっとしてこいつはすごい作品なんじゃねえか?「お前にとって半額弁当はただ売れ残って古くなった弁当でしかないのか?」と言う台詞がなぜかあまりにも熱く格好良い台詞に聞こえてきた自分は一体どうなってしまったのか、自分でもよくわからん。よくわからんがとりあえずそれに力強く”否”を唱える主人公がマジで格好良く思えてしまった自分は、目医者に行った方がいい。むしろ脳か。

この現実にはありえない状況設定の中で熱いストーリーを語ると言う設定に、思わず『学校の階段』と比較してしまった(もっとも僕は『学校の階段』がかなり嫌いなタイプなのだが)。比較することによって違いが浮き彫りになってきた感じ、と言えるだろうか。まあ単純に言えば、ベン・トーは物語にナルシズム的な部分が少ないということなんだと思う。僕が階段シリーズが嫌いな理由は、あれって主人公にもの凄く都合の良い世界で出来上がっているところ。主人公を襲うあらゆる葛藤は、すべては彼によって解決されるために存在する、とでも言うような。主人公に(そして読者に)キモチノワルイ要素を限りなく省いている。主人公とそれを取り巻く世界の無謬性とでも言うのかな。それがもっともキモチワルイことである、と言う視点を欠いていると感じられるところがどうしても好きになれないところなのだ。

それに対して、このベン・トーは、最初からその目的が”くだらないこと”である認識がある。主人公も、ヒロインも、あらゆる登場人物たちは、”たかが半額弁当”と言う認識がある。しかし、そんなどうと言う事はないくだらない目的であろうとも、そこに強靭な意志があれば、目的の価値など些細な問題なのだ。正確には”目的の価値は自分が決める”と言う強烈な指向だ。自分の目的の価値は、誰かに決めてもらうものではない。自分で本気で、全身全霊で取り組んだ行為は、誰にも否定をさせない。つまり、この作品には普遍性がある。状況と舞台設定とキャラクターは頭がおかし…いや気の毒なのだが、物語が主張することは当たり前のもの。それがこの作品を単なるバカ小説ではなく、普遍性のある熱い青春小説に昇華させているように思うのだ。

まあ、ギャグはまったく笑えないがな(むしろ顔が引きつってくる)。

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