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2008.03.25

『MAMA』読了

51yzi0nbk6l__ss500_MAMA』(紅玉いづき/電撃文庫)読了。

最近、いろいろとファンタジー(ここでは狭義のジャンルの意味でのものね)をよく読んでいるんだけど(この『MAMA』もそうだし、西魚ナリコの『時と黄昏の狭間』もそう)、ものすごく面白いと思ったファンタジーがなぜか全員女性作家と言うのは、なにか意味があるのだろうか。ふと振り返ってみると、上橋菜穂子も好きだし、荻原規子も好きだったし、梨木果歩も面白かったなあ。五代ゆうも入れてもいいか。男性作家でファンタジーを書いている人で、面白かった人が、最近ちょっと思いつかない。

なぜなのか、と言うことをちょっと考えてみると、女性的な観点なのかもしれないけど、どの作家も、異世界を描きながらも、設定そのものには囚われず、空気感を紡ぎだすことに腐心しているということがまずあると思う。そこには設定厨がよく陥りがちな堅苦しさがなく、ごく自然に異世界が現出してくるのだけど、同時にあくまでも作家たちの視点は、”人間”に固定されているところが良いのだろうと思う。このあたりは、男性との視点の違いなんだろうなあ。異界を表現するのに、風景描写に費やすのではなく、あくまでも人間同士のやりとりの中から異世界を生み出す。心の交流、ロマンスを通じて、読者は異世界を直感として理解していけるようになる。のかもしれない。うーむ、よくわからんです。

さて、『MAMA』という作品についてだけど、これはまさに、人間に対する愛情をに満ちた異世界ファンタジーでありますね。誰かを愛するということはどういうことなのか。何かを得るということはどういうことなのか、と言う誰もが抱える当たり前の事を、残酷に、そして優しく描いている。ファンタジーって言うのは、いわゆる逃避文学と呼ばれることがあるけれども、本当に優れたファンタジーは、単に異世界を描くのではなく、幻想の世界でもって”人間”を描くものなんだよね。現実でもいくらでも起こっている残酷なもの。ファンタジーだからこそ、残酷から逃げてはいけないのだと思う。

トトとホーイチが襲われた不幸と言うのは、実のところ人生では良くあることでもあるわけです。集団から排斥され、はじき出されたものたちが、お互いにすがって生きることに何の間違いがあるだろうか。でも、そうして依存しあった関係は、結局はいつかは崩壊することは避けられないことなのです。特に、彼女と彼は、その存在意義が根本的に異なる存在であるわけだから。彼女とともに生きれば、彼は彼でなくなってしまう。彼が彼として生きようとすれば、彼女を殺さずにはいられないだろう。その危うさを、ホーイチはもちろん分かっていただろうことは間違いないし、自分がいなくなったあと、彼女を自分とは違ったやり方で守ってくれる相手も探していたのかもしれない(そこまで積極的じゃないかもしれないけど)。だから、多分、最後のあれはほとんど自殺も同然なんじゃないかと思う。自分の役目は終わったから。本当の意味で彼女を守ってくれる相手も見つけたから。

その時、彼は何をおもっていたんだろうねえ…。彼が思う彼女への気持ち、彼女が知った、彼への気持ち。主従であり、親子であり、恋人であった二人は、結局、お互いの事を本当につながりあうことは出来ていなかったのかもしれない。ただ傷を舐めあっただけだったのかもしれない。それでも、彼女のために出来る、唯一の、冴えたやり方を選んだ人食いの魔物の心には、確かに、そういう何かの気持ちがあったんだろうと、思いますですよ。

「MAMA」の後日談。「AND」も同時に収録。
「MAMA」で語られなかった「彼女」の気持ちに救いがもたらされる。一言で言えば、要するに”愛”、と言うやつだ。子を思う親の気持ち。ただ溢れるばかりのそれが、救われなかったそれが、結実する。これによって、「MAMA」で描かれたものもまた、結末を迎えるわけだ。親から子へ、子からそのまた子へ。受け継がれていくもの、とかね。それって、言葉にすると陳腐だけど、だからまあ、それはそれでいいんじゃないかと思いましたですよ。

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コメント

>異世界を描きながらも、設定そのものには囚われず、空気感を紡ぎだすことに腐心している
挙げられてない十二国記や野梨原花南の諸作はこの辺の判断基準とはそれぞれちょいと方向性違うかもしらないですね。
男性作家のファンタジーは、森見登美彦とか暗闇にヤギを探してみたいな現代ものを除くと、たしかにぱっと良作思いつかないですね。ドラグネット・ミラージュが異文化コミュニケ方向で面白かったですけど話が発展する前にレーベルが沈みましたし。たまにゼロの使い魔が意外とよく出来てたりするとは思いますけど。

投稿: | 2008.03.27 02:36

ああ、十二国記は想定していませんでした。あれは、かなりシステムティックな作り方をしていて、古典的な意味でのファンタジーとはまた異なっている感じがしますね。どちらかというと、”異世界”を描くよりも、キャラクターを描くことを重視しているように感じます。

野梨原花南さんの本は、実は読んだことがないのですが、同じような方向性なのでしょうか?(読んでみようかなあ)

森見登美彦や穂史賀雅也については…ええと、書き始めると本当にきりがないくらいに思い入れがあるので詳細は触れませんが、文中であげた作家と比較すると、異世界というか幻想を、分析しようという傾向があって、その点に男性作家と女性作家の視点の差というものが見れて興味深く思います。

あと、ゼロの使い魔については、一部の隙もない一流の工芸品のごとき端整さを感じます。マジで。そこが逆に欠点でもあるわけですが…。

ドラグネット・ミラージュについては、続きがなんとかして出てくれるものと信じたい…。

投稿: 吉兆 | 2008.03.27 17:12

こういった女性作家の作品は基本的にはファンタジーでなくともできる物語を一点(一部)ファンタジーでなくては難しい要素を加えることで異世界という風味が引き立っている、みたいな感じなのかもしれませんね。

十二国記の場合は異世界を舞台にした”普通の群像劇”的な感じというか…上記が”異世界”であることをメインとしないことで引き立たせているとすれば十二国記は”異世界”であることもメインのうち(しかしうまく溶け込ませている)見たいな感じかな?

男性作家さんの場合、ファンタジーであることがメイン、ないしファンタジー世界であることが必要不可欠(それゆえのトリック、話の展開など)かファンタジーで無くともまったく問題は無い(そのためストーリー等に普請して”幻想”についてはあくまで舞台設定程度ですます)かの両極端というか味つけが濃いのが多いという感じなイメージですね。

前者が薄めなんだけど決して濃い味ではないしし薄味とも言い切れない、みたいな感じとすれば後者はきっちり薄いか濃いかがはっきりしていて、十二国記みたいなのは美味く両者のバランスを取っている(悪く言えば中途半端)といった感じでしょうか。あくまで私のイメージですが

投稿: kkrk | 2008.03.29 12:43

>女性作家の作品は基本的にはファンタジーでなくともできる物語を一点(一部)ファンタジーでなくては難しい要素を加えることで異世界という風味が引き立っている

それはつまり、例えば男女のロマンスを描くことが主眼で、しかし、ロマンスを成立させるために異世界の設定を利用している(言い方が良くないな)、ってことですかね?『MAMA』で言えば、ホーイチの人食いの魔物、と言う設定みたいな。

書いていて気がついたんですが、僕は女性作家は、どちらかと言うと”異世界そのもの”よりも、そこで生きる”人間の感情”にこそ重要視している感じがするんですよね。異世界で生きる人たちの、生々しい感情(kkrk さんが言っているのは、そういうことなんでしょうかね?)。

そう考えると、十二国記は、女性作家のそういった部分をもっとも先鋭化させた作品であるといえるのかもしれません。世界設定は、あくまでもキャラクターの葛藤、ひいては作者のテーマを語るための舞台装置に過ぎないという点など、ものすごくドラスティックなことをしているような気がします。

まあ、このあたりの話は、一般論として言うにはちょっと危険過ぎますが。あくまでもそういう感覚がある、と言うにとどめて置いた方がいいでしょうね。

男性作家については…うーん、ちょっと分析難しいかなあ。森見登見彦はちょっと一般的な男性作家の傾向とはかけ離れたところにありますからねえ…。

投稿: 吉兆 | 2008.03.30 00:29

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受信: 2008.03.30 20:57

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