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2008.01.23

『カッティング ~Case of Tomoe~』読了

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カッティング ~Case of Tomoe~』(翅田大介/HJ文庫)読了。

なんかこう、この作品には、独特の温度の低さがあって良い。カッティング、と言うタイトルが示す通り、傷ついている少年少女の話なんだけど、作品中で、傷をいたずらに神聖視しないところが、この温度の低さにつながっているのかな、と思う。よく、いわゆるセカイ系と呼ばれる類い(と僕が思っている作品)では、傷を持つと言うことは、すなわち聖痕につながるというか、選ばれし者としてもトラウマが付与されるケースがある。傷を受けることで、その世界における異物となるということは、否応なしにドラマが生まれるものだからね。だから、わりと選ばれし者、と言うか英雄は異相を持って生まれてくる、と言われている。

で、この作品なんだけど。この作品でも、わりと傷、トラウマと言うものは重要な地位に位置づけられている、ように見える。主人公の家庭の事情は複雑で、その複雑な過去からの出来事が、現在に現れて、主人公は葛藤する展開になるわけだ。ヒロインも、実に悲惨な過去を持っていて、その苦しさにもがきながら主人公とぶつかり合う。うん、非常にドラマティックだよね。

ところが。物語の後半で、その傷と言うものは、別段特別なものじゃなくて、単に思いつきとか、面白いからとか、まあ誰かの理屈っつーか都合で付けられたものに過ぎないということが分かる。まあそれはそれで悲惨なことではあるんだけど、同時に、そんなふうな悲惨さと言うものは、だれかの都合でいくらでも付けられているのだ、と言うことでもあるわけで。まさしく、悲劇的であるがための悲劇であって、特別でもなんでもないことと言う結論があって。

そんで、そういうトラウマでさえ、主人公たちを”特別なもの”への担保とならない点が、非常に容赦がない作品であるなあ、と思ったりしたわけです。

まあ、だからなんだ、という話ではあるんだけど。

ただ、信仰するべきもの(ここではトラウマがそうなんだけど。まあ他にもいろいろ)が何一つない不毛さを知りながらも、それに代わるものを得ようという作品なんだろうなあ、と、僕は評価していて、今のところ恋愛がその担保になっているようだけど、もしかするとさらに深い、根源的なものを求めていくのではないかなあ、とこの作者には大いなる期待を寄せているのでした。

つか、僕はこういう方向性の作品が好きなんだよな。『この世にあるもので価値あるものは何一つ無い。あるとしたら、自分で作り出したものだけだ』(by銃夢のイド・ダイスケ)を実践しようとしている話。冲方丁もそれをひたすら追い求めている人なんで好きなんだ。

まあ、その、自分でもな。がんばるよ、うん。

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