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2008.01.22

『永遠の戦士コルム2 雄牛と槍』読了

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永遠の戦士コルム2 雄牛と槍』(マイケル・ムアコック/ハヤカワ文庫SF)読了。

永遠の戦士、コルムシリーズの完結編。前シリーズで法と混沌との戦いに決着をつけ、神々すべてを追放したコルムの新たな冒険は、はるか未来における愛した女性の子孫たちからの呼び声から始まる。なんだかんだで前作のヒロインの添い遂げることが出来たコルムだったけど、マブデンとの寿命の差によって別離を強いられてしまったことの苦悩から新たな闘争を求めるエターナルチャンピオンの良くない習性が出ておりますね。コルムは、エルリックと比較すると運命な従順な印象があるけど(エルリックが己の運命に抗いすぎと言う説もある)、その分、運命をめぐる苦悩は少なく、極めて英雄らしくある、と言うのは皮肉なことだ。つまり”供贄”としての英雄である。コルムは己の属した時間、己の故郷さえもすべて失いながらも、マブデンたちを助け、そして英雄としての人生を完結させる。それは何者か(まあ、作者なんだけど)の描いた予定調和で完結しており、その意味ではまことの”運命に使い捨てられた男”であった、とコルムの人生を現すことも出来る。本当にそれ以外の表現が見つからないところが、ムアコックの持つ虚無感であり、”英雄的存在”に対する(そして英雄的存在を必要とする世界に対する)疑義を差し込まずにはいられない願いが感じられるのである。コルムは英雄として生きてしまったがために、英雄として死ぬ運命さえ受け入れてしまったのだな…。

物語的には、これはひょっとして<百万世界の合>が過ぎ去った後の物語になるのであろうか?今回、コルムが立ち向かうべき存在と言うのは<フォイ・ミョーア>と呼ばれる妖の者。コルムがマブデンの王たちに受けた説明によると、もともとエントロピーの神が、不治の病に取り付かれ、さまよい続けている存在などという。つまり混沌の神の成れの果てか…。

永遠の戦士が持つ史上最大の戦いの時期に、<百万世界の合>と言う瞬間があって、このタイミングで行われる戦いは、それこそ一切の並行世界、平行宇宙の存亡に影響を与えるものになるらしい。大抵はエターナルチャンピオンの最後の戦いがそれにあたるんだけど、どうもジャリー・ア・コーネルの言い回しからすると、コルムの世界における<百万世界の合>は過ぎてしまっているらしい。つまり前回の戦いがそれだったわけで。と、言うことははるか未来で行われる戦いと言うのは、おそらくは世界がファンタジー(すなわち神)を必要としなくなっていく過程そのもの。その変化を受け入れることが出来ず病み疲れた存在が<フォイ・ミョーア>なのだろう。すでに存在価値も無い、誰からも必要とされない、後は崩れて滅びるだけの存在。彼らは自らの滅びを世界すべてを巻き込もうとしている・・・。いと哀れだ。

これは、ようするに世界にとっての後始末なんだろう。世界は神を必要とせず、別のやり方で生きていくことになる過程で、神を切り捨てる行為そのもの。その過程にコルムが立ち会ったというだけなのかもしれない。

そうしてコルムは神を、かつてはそうであったものたちを殺し、かつては大いなる力を振るった地精たちも送還し、魔法と呼ばれるものも封印した。世界は人間の手にゆだねられ、新たな世界が始まる偉大なる一歩を踏み出した。

そして、世界は、最後の幻想を捨て去っていく。

銀の手など数多くの異名を持った隻眼、隻腕、世界で最後のヴァドハー族である英雄。半神とまで謳われた彼こそが、この世界に残された幻想である。

幻想である彼の行くべきところはどこにも無い。生涯を神々との戦いに生きた男は、愛も友も命さえ得るものもなく、ただ死んだ。

英雄は死んだ。彼はマブデンに永遠に語り継がれることであろう。だが彼の孤独を癒してくれるものは永遠に失われてしまったのだ。

それでも永遠の戦士は、またいつか、どこかで転生し、戦い続けていくことであろう。

ただ、その戦いに意味のあらんことを。

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コメント

感想が素晴らしい。
この「永遠の戦士」の「深さ」が大好きだったのですが
2ちゃんねるの掲示板を見たら、エルリックは性が薄そうなのによきウーンに
種付けできたな(笑)とかアホな書き込みばかりで
幻滅してたところこの文章を見ました。僕はこのシリーズの「英雄」達の葛藤とよくあるSFの万能主人公では無い非力さが何か心を打つものがあります。

投稿: ノリ | 2008.11.07 03:40

ノリさん、はじめまして。過分なお言葉ありがとうございます。2chはまあああいうところですからあまり気になさらない方がよろしいかと。

エターナルチャンピオンシリーズは、”英雄”の虚無感にスポットが当たっていますね。運命の奴隷として大いなる役目を背負わされてしまった人達の悲劇。作者が年輪を重ねるにしたがって、”英雄”と言うものを見つめる眼差しにも変化が生じているところもまた興味深いところです。

投稿: 吉兆 | 2008.11.07 23:06

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