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2007.09.05

『ミステリクロノ』読了

02902617
ミステリクロノ』(久住四季/電撃文庫)読了。

この作品は、あらゆるライトノベル設定をミステリ的ガジェットに奉仕するためだけに構築しており、その意味では非常に潔い作品なんだけど、その一方でキャラクター小説としてもなかなかの力作であると感じる。つらいことや苦しいことをすべて”無かったこと”にしようとするヒロイン、真里亜は、終わり無い日常の繰り返しを求めるオタクの心象そのものであり(こういう言い回しはいやらしいよね。使うけど)、彼女が自らを不快にさせるものから逃げずに立ち向かおうとするまでを描いた点はきちんと評価するべきではないかと思う。ただ、彼女が立ち向かうことが出来るようになるまでの過程が、主人公との交流だけであり、それ以上のドラスティックな出来事が無かったことについては、これはリアルと取るべきか、物足りないと言ってしまうべきか迷うところだ。これで十分な気もするし、より派手な展開を求める自分もいる…。まあ今後どうなるか分からないし、保留にしておくか。話は変わるが、”時間”をテーマにしたアイテムと言うのは、自分の人生に悔いが残っている人ほどに強烈な誘惑をもたらすもので、読み手によってこの作品の評価が変わって来るような気もする。単なるガジェットと取るか、果てない夢ととるかによって、この作品における犯人と主人公の壮絶な葛藤の受け取り方も変わってくるだろう。やり直したくてもやり直せないと知ったときが本当の絶望なのだ、と言うことを、この犯人は知ってしまったのだ。一方、ヒロインの真里亜は、まだ自分の足で歩き始めたばかり。彼女は、犯人が何故そのような行為をしたのかまったく理解できていない。何も持たず、これから得るばかりの彼女の始まりは、いささか手荒くはあるものの、未知なるものに囲まれ光り輝いている。彼女の絶望の誘惑はこれから生まれるのだ。ともに歩くべき主人公はすでに、希望を求めながら絶望にも引かれ、彼女のそばにいつまでいられるか分からない。彼らの運命は、まさしく時間だけが知るところなのだろう。

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受信: 2007.11.09 00:25

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