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2007.05.28

『塔の町、あたしたちの街』読了

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塔の町、あたしたちの街』(扇智史/ファミ通文庫)読了。

この作者は、つくづくエンターテインメントが書けない人だと言うことを認識した。と言うか、エンタメをしようとしたとたんにつまらなくなるのは、やっぱりこの人は本質的に”絵空事”が描けない人なんだなー、と思う。つまり自分の中にあるものしか描けない、あるいは描かないタイプと言うのか。普通は自分の中だけで描けなくなると、取材したり資料を調べたりして自分の枠外の事物を”借りてくる”ものだけど、この作者はそれをしないで、徹底的に自分の中にあるものだけでやりくりしているように思える(言うまでも無いことですが妄想ですよ)。それが小説家として悪いとは必ずしも言えないのだが、例えば徹底的に自分のインナースペースを突き詰めていった作家に神林長平と言う人がいて、この人は自己と世界の境界の揺らぎを自分の感性のみで規定していこうと言うことを何十年にも渡って描き続けているのだが、その生み出される世界は”狭くて普遍性はない”替わりに非常に底が深いものになっている。僕が感じるのは扇智史と言う作家は、おそらく神林長平と同じタイプで、己の内部を突き詰めていこうと言う志向を持っているということだ。だが、その志向は必然的に他者との共有部分を失っていく事を意味しており、また自分の中に”無い”ものを描こうとするときに致命的なまでにリアリティを失うことにも繋がる。僕がこの作品の中で感じるのは、明らかに作者が自分の中に”無い”物語を無理矢理に描き出そうとしたと言うことであって、扇智史の”生”の部分が今ひとつ見つけられないのだ(この作家は、作家自身の内臓を描くことでようやく他者に訴えるものが生まれてくると僕は思う)。正直なところこの作者がエンターテインメントに興味を持っていないということは分かりきっているので、この方向性では作者にとっても読者にとっても不幸であると思った。作者にはもっと書きたいものを書いて欲しいと思う。

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塔の町、あたしたちの街 作者: 扇智史 出版社/メーカー: エンターブレイン 発売日: 2007/03 メディア: 文庫 ストーリー 積野辺(つみのべ)と呼ばれる土地がある。街の中には天を貫くかのような巨大な塔がそびえたち、その麓で人々は暮らしている。この街では普通の世界では... [続きを読む]

受信: 2007.05.29 01:42

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