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2007.01.20

『斬魔大聖デモンベイン ド・マリニーの時計』読了

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斬魔大聖デモンベイン ド・マリニーの時計』(古橋秀之/角川スニーカー文庫)読了。

『ブラックロッド』シリーズ以降の古橋秀之は、小説の上手さは誰しもが認めるところでありながら、それまで遺憾なく発揮されてきたユニークさ、圧倒的な個性と言うものを押し殺す方向性をとってきていた。奇想天外なアイディアとリリカルといってよい叙情、そして疾走するドライブ感をあえて封印し、より普遍的な物語を紡ごうとしているように思えるのだ。しかし、その試みは大抵の場合はそれほど成功しているとは言い難いと個人的には感じる。いかに普遍的に受け入れられやすい記号を用いたとしても、その記号の隙間に入り込む古橋秀之の個性が当たり前の物語を当たり前のままにとどめることなく、奇妙な違和感を残す。端的に言ってしまえは、とても”ヘン”なのだ、この人の作品は。何でこんなことを思いつくのこの人?と本気であきれるくらいに、まさに奇想に次ぐ奇想のオンパレード。個人的には日本のアブラム ・ デヴィッスンと褒め称えたいくらいなのだが、その奇想が一般的なライトノベル読者を遠ざけていた理由の一つであろうことは疑いない。しかし、近年刊行された『ある日、爆弾が落ちてきて』において、奇想とリリカルな叙情を見事に融合させたことにより、ようやく古橋秀之に時代が追いついてきたように思える。一ファンとして今後の活躍を期待したい。

さて、『斬魔大聖デモンベイン ド・マリニーの時計』の話である。いわば古橋デモンベインとしての三作目に当たる今作だが、まさに古橋秀之の奇想が存分に発揮されており、ノベライズの枠を超えた作品と言えよう。まあ端的に言って、これは傑作である。収録されている書き下ろし、「遺跡破壊者」が特に素晴らしかった。ドクターウェストのノリノリのテンションの次から次に繰り出される不条理なアイディア(鼻行類が出てくるとはなあ…)が光る。何かが間違っているような気がしないでもない格好良さといい、まさに古橋秀之100%だった。僕はこんな古橋が読みたかったのだ。幸せである。

久しぶりに各話感想。

第一話「ド・マリニーの時計」
作者も言っているように、「へーデモンベインってこういう話なんだー」と言うところをきちんと踏まえたオーソドックスな話になっている。時間改変ネタっぽいところも無いではないけど、その辺は比較的抑え目か。主人公の九郎くんを初めとして、全体的にキャラクターの性格が素直になっているのもいいですね。

第二話「遺跡破壊者」
まあ何度も言っているけどこれは傑作。古橋秀之は本当にアホだなー、格好良いし上手いけど。まあこの話についてはグダグダ何か言うことはありません。とにかく面白い。

第三話「破壊への序曲」
ドクターウェストによる、ドクターウェストのための、ドクターウェストの話にしてアーカムシティの愉快な人たちの話。延々と脱線し続ける展開もしょうもなくて好きだが、目的と手段を容易く取り違え、勘違いしたまま暴走するウェストのキャラクター描写が素晴らしい。古橋秀之は完全にドクターウェストと言うキャラクターを掌握しているなー。もうこの人が創出したと言われても驚かないな。

ああ面白かった。あとがきだと古橋デモンベインは終了みたいなニュアンスだが、この調子でぜひ続けていただきたいものだ。もちろん普通にオリジナルの新刊でも良いですが。新刊出ないかなあ。

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コメント

シスマゲドンの続きがえらく気になるのだが、どうよ?
どうなのよ?

古橋御大は、もっとはっちゃけてもいいと思います。
(正気度の低い発言をしてみる)

投稿: 背徳志願(ツンデレ) | 2007.01.30 06:26

えーっと。近刊、じゃなかったっけ?どうなったんだあれは…。

投稿: 吉兆 | 2007.02.01 00:04

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