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2006.12.16

『グラン・ヴァカンス―廃園の天使(1)』読了

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グラン・ヴァカンス―廃園の天使(1)』(飛浩隆/ハヤカワ文庫JA)読了。

ラキッドガールを読む前に再読。

いやあ、僕もライトノベルが中心とはいえ色々な本を読んできたわけですが、ここまで淫猥にして清廉な印象を受けたお話はこの本で初めて読んだような気がする。鮮烈な太陽、打ち上げる波飛沫、永遠の南の島の健全さと、それらをすべてを多い尽くす汚辱と陵辱の檻。もうたまんねえなあ。

人間に見捨てられたAIたちがいまだに活動を続けている仮想リゾート<夏の区界>の平穏が突如として崩壊し、絶対的な消滅の危機に襲われていくのだけど、その絶望の書き方がまあた凄い。懸命に生きる道をさぐるもの、自暴自棄になるもの、恐怖にただ震えるもの、力に見入られるもの、それらすべてに降りかかる、平等にして絶対的な、尊厳の欠片すらない苦痛に満ちた死。この作者は、自らが作り上げた美しい作品世界を一切の容赦なく崩壊の釜にくべていく手つきの揺るがなさがあり、その揺るがなさゆえに登場人物たるAIたちと<夏の区会>はめくるめく苦痛と官能に彩られ、崩壊の美を歌い上げながら消失する。

そこに表出する美は、常に後ろ暗さが付きまとう。それは現実によって陵辱されることを強制された仮想世界が持ちうる被虐的な官能であり、その苦痛を感受せざるを得ないAIたちの苦悩の中から生まれる。僕はそこに精巧にして醜悪な芸術作品の一切が踏み砕かれる破滅的な美しさを感じられてしまうのだ。

いろいろな人が言っているけれど、この作品は万人に受け入れられるものではないだろう。虐げられるだけの存在だった主人公が、自分の未来を切り開いていく終幕は感動的とさえ言ってもいいのだが、その希望は絶望によって生み出されたものであると言うように、決して明るいだけのものではない。だけれども、僕はこの作品の(いっそポルノグラフィカルと言ってもいい醜悪さと裏腹にある)美しさを賛美することにはためらいは感じない。これは美しさと醜さが同居し、淫らで気品に満ちていると言う、僕にとっての理想的な物語の一つでなのである。

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コバルト文庫の新刊情報や作品の感想など辛口レビューもたまにはいれてコバルト文庫好きのかたと一緒に楽しむブログです。 [続きを読む]

受信: 2006.12.16 21:25

» 「グラン・ヴァカンス-廃園の天使?」 飛浩隆著 ハヤカワ文庫 [Nobody knows]
圧倒的なスケールでドキドキとワクワクを与えてくれる本に、この先何冊出会えるだろうか。面白い!という点では間違いなく100点満点。きりのいいところでなかなかやめられず、全10章500ページを一気に読み終えた。ハマルという感覚よりも、すでにハマッていることにすら気がつかない危険な状態。しかし、描写がグロテスクな場面があるので、ダメな方にはきついかもしれない。 と呼ばれる仮想リゾート。 南欧の田舎町を模したその仮想空間に暮らすAI(人工知能)たち。そこには四季がない。終わりのない永遠の夏が続いてい... [続きを読む]

受信: 2007.01.08 22:33

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