『薔薇のマリアⅤ.SEASIDE BLOODEDGE』読了
『薔薇のマリアⅤ.SEASIDE BLOODEDGE』(十文字青/角川スニーカー文庫)読了。
うーん面白いよー。エルデンの怪異はひとまず収束し、最後のZOOメンバーに会いに行くためにジェードリへ旅立つZOO一行であったが、ジェードリでは、今まさに街を仕切るマフィアと殺戮こそを教義とする教団の間で決戦が繰り広げられようとしていた。その抗争は、大切な人を守るため、そこに住む多くの人たちに対して血と涙の雨を公平を降らせつつ、凶暴で残酷な祭が今始まる!仲間たちとの大切な時間を過ごすマリアをよそに、笑い、泣き、いがみ合う人たちの物語を描いた異色作である。
限りなく外伝に近い作品で、言うなれば一巻まるごとインターミッションみたいな位置付けになるのだが、そこに生きる人たちの愚かさと悲しさといとしさは、本編となんら遜色は無い。街を仕切るマフィア、バンカロファミリーの個性的な人々や、捨て子たちを集めて”家族”をつくった娼婦の一家、殺戮を救済としてあがめる教団の三者の視点から語られている。あるものは寄る辺無き身を寄せ合い必死に生き、あるものはいがみ合いながらも大切なものを守るために身を捨て、あるいは剣を取り、あるものは失うことの悲しみに耐えられず暴走をし、またあるものは身のうちに秘めた狂気を満たすために人を殺す。そのどれもがあまりに人間的過ぎる葛藤があり、懸命に生き、そして死ぬ。
マリアたちの目の届かないところでも人は生きている、というごく当たり前の事実、そして生きることの困難さと人の愚かさを全部ひっくるめた上で”人間”を肯定すると言う、人間賛歌と言うにはのあまりにも狂騒的で熱に浮かされたようなエネルギーの爆発には、否応なしに感情を揺り動かされてしまう。
愚かで切ない。でも一生懸命生きているし、その中には掛け替えの無い光がある。そんな物語は、この作者の真骨頂だと思った。もう、本当に最高ですこれ。
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