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2006.04.18

『奇憶』読了

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奇憶』(小林泰三/洋伝社文庫)読了。

この作品は、量子論的なSFとしても、人間の認識が揺らぐホラーとしても隙無く構築されていて、非常に出来が良い作品なんだけれども、何よりもやはり”駄目人間小説”として素晴らしい作品であると言う事が出来る。何が駄目かと言えば、とにかく主人公のすさまじい駄目っぷりが冴え渡りすぎている。真面目で不器用で、何事にもこつこつとやるタイプだが、プライドが高く、偏狭なる自尊心を抱え込みながら場当たり的に物事に取り組み、のちのちにそのツケが回ってきてから後悔し、うろたえ逃げ回り、逃げ回ったこと自体に自己嫌悪し、自己嫌悪する自分をさらに侮蔑し、その状態から抜け出そうとしようとも結局行動に移す事が出来ずに足踏みをして足踏みをしている事に対して自分自身に言い訳をする事で自己正当化をしているのである。…本当に何とかして欲しい。

とにかく過剰に感情移入してしまったので、面白いとかどうとはとても言えなくなってしまったのだが、あまりのダメダメな主人公の心理をトレースしているだけでいかなるホラーよりも精神が痛めつけられてしまった。あまりに痛めつけられたせいで、逆説的に勇気が沸いてきてしまったくらいで、畜生、こんな人生だけは嫌だ!と異様にテンションが上がってしまった。これを読んでからしばらくの間、精神的にも肉体的にも絶好調で、我ながら影響され易い事この上ないが、これはこの作品のもつ細部に神か悪魔かしらないがそのようなものが宿っていると考えて褒めるべきではないかと思った。

SFとしてはともかく、主人公の不思議な過去の記憶を思い起こすにつれて、現実と夢が揺らぎ、物語が混沌を迎えていく部分も大変に面白かったけど、とりあえず主人公の駄目心理独白のすさまじさにシャッポを脱いだ。参りました。

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