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2006.04.22

『天使のレシピ』読了

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天使のレシピ』(御伽枕/電撃文庫)読了。

結論から言うと、とても面白かったと思う。内容は電撃文庫らしく天使が表れて心を持て余す少年少女たちの手助けをするという内容なのだが、そう言ったいかにもライトノベル的なラブコメ部分は、実はほとんど存在しない。あるのは、ただひたすらにストレートな恋愛物語なのだ。おそらく、恋愛をすると言う事は、”自分自身”と”自分と他人”の関係を幾度となく確認し、見直していく作業そのものなのである、と言うような事をこの作品を読んでいて感じた。つまり、人を好きになる事で自分の内面に変化が生じ、その変化そのものが新たな変化を相手に(そして周囲に)もたらしていく。”好きになる”という行為は、それが内面に秘められたものであったとしても、極めて積極的な行為であり、ただその感情だけで世界は変革を迎えるのだ。

ただ、実のところ僕はこの作品をきちんと理解出来ていないような気がする。”天使”が言う”心を落とす”という行為が、果たしていかなる意味を持つのかと言う事が漠然としか把握できず(それは自分の心が思い通りにならないもどかしさの比喩なのだろうか?)、僕の理解に即した形でフィードバックが出来ないでいるのだ。そこの理解をなくして真の意味でこの作品を理解出来たとはいえないと思うし、その意味では批評を下す事も出来ない。もしあるのであれば、作者が考えているはずの”天使”と”恋人”と”心”にまつわる物語をこれからも読んで行きたい、と思わされたのは、おそらくはそのような理由なのだろう。

以下各話感想。

「超告白-cognition-」
とても良い。これはどの作品にも共通することだが、いわゆるラブコメとは一線を画している。いわゆるキャラクター小説では全然無いのだが、恋に戸惑い浮き立つような焦燥感と、不思議な喜びという感情の描写が隅々まで行き渡っており、それを自覚できない語り手である少年の葛藤が不思議なユーモアを生んでいる。ただまあ、「恋愛感情を丸ごと落とす」と言う下りは良く理解出来なかったのだが…。無くしていたら感情も無くなるのでは。

「トランキライザーキス-a tranquilizer-」
一見したところ不思議な”呪い”にかかった少女一人と少年二人の三角関係と言った物語に見えるのだが、実際にはお互いに相思相愛でありながら、分かり合えない部分に耐え切れなくなった少女の葛藤と成長の物語のような気がする。「心を落とす」と言う意味も良く分かった。少女が抱える好きで好きでしょうがない気持ちを、少年がきちんと把握していない(出来ない)ことからの逃避と、その代償行為が”トランキライザーキス”なんだろうね。”トランキライザー”にされてしまった少年が非常に男らしくて、それゆえにラストの晴れやかさと対比したほろ苦さを感じた。

「恋愛実験-exchange-」
恋をしたことが無い少年と、自己の境界の揺らぎに怯える少女の、極めて魅力的な恋愛話。いわゆる内気でドジで地味な少女、というライトノベル的な記号としたはありふれた少女の内面が描かれたお話としても読める。”一人称”を主張できず、周囲との関係からしか自己を認識できない少女が、完璧に個としての確立を終えている少年との間に不器用で、しかし甘々な交流をしながらイチャイチャするというなんだか良く分からんがとにかくすごい面白い。デートの場面の中で細かいエピソードをこれでもかこれでもかと繰り出す手法にはノックアウト。なんて可愛らしいカップルなんだ!あと、個として確立している少年自身が、完全に個となる事に対して恐怖した、というセリフもあったのも良い。ラストにはちょっと泣いた。

色々好きなのだがちょっとだけ引用。

「なにをボーっとしている」
は、
「眠いのか?」
「なんでもない!眠くないよっ!えっと、」
それではデートを始めましょう、なんてどういえばいいのか分からない。彼に先導して欲しい。
不意に彼が数歩後ろに下がって、
「私服の雪宮も良いものだな。レポートにまとめる価値がある」
とあごに手をやりわたしの全身を視界に納めながらしみじみと言った。
もうまともに立っていられません!

面白いなあ…。

「ソラヲトベ-separation-」
好きで好きでたまらないと言う気持ちは、相手と自分の間の境界線を取っ払おうと言う志向を常にもっており、それは人間の他者への欲望がもっともストレートに表れた部分なのだろうと思う。それがエスカレートをすれば、それは究極的には”関係”は無くなり、彼であり彼女であると言う状態になる。それは相手のが何を考えているのかわからないと言う疑心、いつかは離ればなれにならなくてはならないと言う恐怖を喪失した関係であるのだが、結局それは単に”自分”しかいないと言うことでもある。孤独でいないためには他人が必要で、他人がいると恐怖が生まれる。別れは常に出会いたいと言う渇望と表裏一体だ。そうやって傷つけ合って、不安に駆られて生きるしかない人間が、それでも自分と相手の間に繋がりを求めている時、「好き」と言う言葉が生まれている。それは単なる言葉でしかないし、それぞれのエゴでしかないのだけど、それでも求める気持ちは狂おしく消えようも無いのだ。怒り憎しみ嫉妬しそれでも恋焦がれる許されざる恋人たちのエピローグには、単に恋愛小説というだけではないコミュニケーション小説としての側面を見せていたのが面白かった。

続きは出るのかなあ(ひょっとしたら出ないかもしれない。これ以上の結論が出せるとは思えないしな)。

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