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2006.04.16

『円環少女(3) 煉獄の虚神(下)』読了

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円環少女(3) 煉獄の虚神(下)』(長谷敏司/角川スニーカー文庫)読了。

おーもーしーれー!このシリーズを読んできて、ここまで素直に衒いなく面白がれたのははじめてかもしれない。勿論今までも面白かったのだけど、伝奇的なハッタリの弱さ(と言うよりも、物語の基本に”理”があり、過剰な衝動とでも呼ぶべきものが無いという事かもしれない)と、物語がどのように動いているのかを一切説明をしない文章(ここは僕自身としては好きなところ。ただ登場人物たちの行動、心情を断片的に抜き出し、一つの物語をツギハギをしている印象がある)など、徹底的にエンターテインメントをしていない部分が、ついに物語と上手く噛み合った感じた。

極めて温度の低い淡々感情を交えず、どこか渇いた皮肉さを感じさせる文体がまず素晴らしいことは言うまでも無いが、その無表情な韜晦に満ちた文体が、どこまでも誰よりも救われない”地獄”に生きる罪人たちの無惨にして平凡極まる生をこれでもかと抉り出す。それは感情移入というものを完璧に拒否し、ただそこにある悲しみも絶望も情愛さえもただあるがままに描写しているところが(これは個人的な意見ではあるが)むしろその絶望的な冷たい感覚を捉えていたように感じた。正直なところ、この読者に不親切な文体といかにもなキャラクター小説的な物語は相性が悪いように感じていたのだけど、多くのどうしようもない理不尽な生を描くと言う事については、(上下巻という分量を費やした事もあり)上手く行ったと思った。

また、前巻で唐突(のように見える)に登場した<神に近い男>グレン・アザレイの描写が素晴らしかった。その持っている論理は、あらゆる意味で青く、幼く、単純に過ぎるのだが、そんな単純な論理だけで”世界”と対峙し勝利せんと言う圧倒的な意志力と、強大にして無比なる能力の描写が卓越している。確かにこれは”人”ではない。同時にあまりに”人間的”すぎると言う絶妙のバランスでもって”英雄”の描写に成功しているのである。そしてそんな神に近い英雄に対して挑む平凡で擦り切れた人間たちという皮肉に満ち満ちた対比がまた良い。そこには世界を守るとかそういうイデオロギーではなくて、ただ自分が自分としてあるための最後の空意地に過ぎないが、それだって何かと対峙する力になるのである。

こうしてみると、今まで僕が感じていた違和感と言うのは、キャラクター小説な部分が物語から乖離しているように感じた事ではないかと思った。つまり作者はキャラクターを記号的に描いている割には、その内面を記号的には描いていないのだが、今回は上下巻を丸ごと使って、その当たり前ですらある内面を描いたおかげで、ようやく”普通”の(ライトノベルではない)小説としての楽しみ方が出来るようになれたので、素直に楽しむ事が出来たのではないかな、と思った。

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コメント

今回の上下巻では、メイゼルたんの水着くらいしか記憶に残っていないのですが。

上巻:スクール水着
下巻:黒ビキニ

…きわめて正しい人としての楽しみ方だと思うが、いかに。

まあ、それはさておきこの作者がこんな早いペースで本だすとは思わなかったよ。個人的には、フリーダの世界とかも続き書いて欲しいなとか思ったりする。

投稿: 背徳志願 | 2006.04.16 17:24

ちょ、ちょっと師匠…それは人間としてどうなのよ。かなり人類的に駄目なかおりがプンプンしてますぜ。

投稿: 吉兆 | 2006.04.16 22:39

もう少し こう 何というか
手心というか…。

投稿: 背徳志願 | 2006.04.26 21:28

なんか難しいことを言っていますね…。

投稿: 吉兆 | 2006.04.26 22:39

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