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2006.03.25

『Sweet Blue Age』読了

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Sweet Blue Age』(有川浩 他/角川書店)読了。

アンソロジーと言うのは、知っている作家が入っていると買いやすい上に、読んだ事のない作者を読める喜びがあって、なかなか楽しいものであるなあ、と今更ながらに思った。当たり外れがあることを受け入れられるのであればだけど。

今回は青春文学と銘打たれているが、まあこのあたりはあまり真に受けないほうがよろしい。青春なのか、青春が終わったあとか、青春をやり過ごしてしまった話であっても青春小説といえば青春小説だしなー。

「あの八月の、」(角田光代)
初角田光代である。これは面白いなあ。いや、面白いというよりは上手いといった方が良いのかな。特に、自分が主人公たちと同年代に差し掛かりつつあるという事実を差っぴいたとしても、一瞬の輝き出会ったはずの青春を振り返った女性たちが、その青春の愚かさ醜さを見出しながらも、自分達の歩んできた道のりを確かめるという話。青春期に対する憎悪とも憧憬とも望郷ともつかない複雑な感情の切り取りが見事だった。美しい…。

「クジラの彼」(有川浩)
前々から有川浩の作劇術(特に恋愛部分)と言うのは、基本はベタであると思っていたのだが、今まで大きな要素であった軍事関係を控えめにして恋愛小説を書いてみると、これがまたすさまじいまでのベタベタな恋愛小説になってしまうと言う事が見事に証明されております。そのベタさ加減はまさしく月9レベル(いや、よく知らないけど)。あるいは少女漫画レベル(特にりぼんぐらい)。一体、こんな話を読んだ僕にどんな期待をしているというのだ!(誰もしてねえよ)

「涙の匂い」(日向蓬)
これまた初めて読んだ作家。こ、これは…やばいちょっと来た。少女の目から見たとてもとても”不器用”な少年に対する恋ともつかない感情の流れが素晴らしかった。特に少年の描き方が良い。少年の内面は徹底的に描写が無く、すべては語り手の少女の視点からの描写に留まっているけど、少女の視点のはしばしに見られる少年の不器用さ(少女は気がつかない)が垣間見えて、見事な描写だった。またここに登場する人たちは、ある種の不器用さを抱えた人たちで、その不器用さゆえに悩み、苦しむ姿を、少女の視線を通じて描いているのも良い。結局、皆が苦しみを抱えているにしても、その苦しみに気が付いて上げられることさえ稀であり、さらに何かをしてあげられることはさらに稀であるのだが、それでも気が付いてあげたかった、助けたかったという悲しみが根底にあるのだ。

「ニート・ニート・ニート」(三羽省吾)
またしても初めて読む作家。タイトルそのまんまだなこりゃ。ただ、本当にニートそのものを書くのではなく、ニートに至る心理の流れを環状線で表現しているのが上手かった。別にコミュニケーションに支障があるわけでもなく、働くことが嫌なわけでもなく、ただそれらに耐えられない堂々巡りにはまってしまった主人公が、そこからなんとか抜けだそう、抜け出したいということを、これまた堂々巡りで考え続けるという、はっきり言ってどうしようもない話なんだけど、ニート(心理)小説としては悪くない。結局結論が出せないで終わる(終わらないけど)部分も見事にニート小説だった。

「ホテルジューシー」(坂本司)
またまた初めて読む作家。冒頭のかなり攻撃的というかセンシティブな語りにはなかなか驚かされたが、結局、そうした尖らせ過ぎた刺を丸くしようとした話と読めばいいのかな。つまり、他人を許す事が出来ない潔癖さは、他者を受け入れる事のできない傲慢さに通じる。自分の駄目な部分を受け入れる事で、初めて他人を受け入れる寛容さを得ることが出来るのだ。まあ、その駄目な自分に安住してしまっては結局元も子も無いわけだけど。その辺のバランスが重要だとは個人的には思うねえ。むしろそうしないと生きていけない。

「辻斬りのように」(桜庭一樹)
桜庭一樹すげー!唐突に始まる主人公の女性の破壊願望にも似た性への衝動が、最後の最後で一つの恋に収束する。女性がもっとも欲しかったものは最初から無かったわけで、それが明らかにされる部分の一瞬世界が空白になるような描写が素晴らしかった。桜庭一樹は、どんどん文章のスタイルが洗練されてきているなあ…。ありえない上手さです。見事。

「夜は短し歩けよ乙女」(森見登美彦)
森見登美彦の非常に格調高くバカバカしい文章が冴え渡る逸品であります。底なしの酒のみの”彼女”が、伝説の酒「偽電気ブラン」を求めて夜の街をひたすらに歩み、進み、さまざまな人たちで出会い、酒を飲む話であり、徐々に物語がファンタジーの様相さえ見せ始め、面白おかしいお祭のように心浮き立つざわめきの中、なお美しくも軽やかに歩き続けるお話。彼女に恋焦がれ追い求める男はつまづき倒れてひっくりかえる有様で、まあ男なんてそんなもんさ!とりあえず”彼女”があまりにも魅力的すぎるので、この作者に興味のある人は必読。ファンにも必読。取りあえず読もう。

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