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2006.03.23

『流れ星が消えないうちに』読了

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流れ星が消えないうちに』(橋本紡/新潮社)読了。

冒頭を読んだ時に、なにやら既読感を感じてしまったのだが、それは一体なんなのかと考えてみたところ、おそらく吉本ばななの『キッチン』ではないかと思った。主人公の感覚と家の中の”場所”が分かちがたく結びついていいるところが、僕に”似ている”という感覚と呼び覚ましたのだと思う。もっとも作品が本当に似ているわけではないけれど。

内容はいつも通りの、そして僕がもっとも好きな橋本紡であった。徹底して描かれるのは”家族”と”聖域”の話。橋本紡の作品の中では、家族と言う一つの居場所、共同体はまず最初に壊れている。その共同体を支えるべき”親”の存在は、その世界を支えるだけの強度をもてず、むしろ親こそが誰かに支えてもらわなければ一人で立つことが出来ない弱さを抱え込んだ存在として描かれる(これはこの作者の作品に共通するテーマであると思う。まあ昔の作品ではどうだか知らないけど)。本来、共同体を支えるべき親の喪失によって、子供たちはそれぞれに代替としての居場所を生み出す。それは擬似家族であり、金曜日の階段みたいな居場所であったりするわけだが、今回はまさしくその両方のモチーフを取り入れているあたりに、この作品は橋本紡の集大成的な作品なのだなあ、と言う思いがした。とりわけ”居場所”すなわち”聖域”の扱いのあまりの繊細さに僕はそれだけで泣けてしまう。主人公の女性は、恋人を失ってから玄関でしか眠れなくなるのだが、玄関とは人が出入りするところであり、不動のものではない。出会いと別れの瞬間の場であるのだ。主人公はそこで眠ることによって、恋人を失ったという事による別離を”保留”している。それは未練を残している、という意味もあるし、立ち直れていないということも意味するのだが、同時にそれは立ち直るまでの猶予期間を自分に与えているという事でもある(玄関は常に流動している)。だから、彼女はいつかはその場所から立ち退かなければならないと言う事を知っている。それを知りながら、飛び立つまでの羽を休めている。ただ、それだけの、同時に掛け替えのない今一時の居場所に対する神聖な祈りにも似た視線には、僕はただ身震いする。涙が出そうになる。

まあ、それでも人は生きなくてはならないのだ。

なんとかなるよ、きっと。

な?

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