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2006.03.21

『七つの黒い夢』読了

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七つの黒い夢』(乙一他/新潮文庫)読了。

帯に傑作ダーク・ファンタジー7選オリジナルファンタジー、とある。正直、どこが?と言う疑問を感じない事も無い。どこ、と言うのは”ダーク・ファンタジー”部分で。これのどこがダークなのか、そしてファンタジーなのかが良く分からないのだけど…。少なくともダークじゃないだろ。
だが、アンソロジー集としてはなかなか面白かった。それぞれの作者ごとにバラエティが富んでいて、読んでいて常に新鮮な気持ちになるのが良かった。

「この子の絵は未完成」(乙一)
久しぶりに読んだ乙一は、相変わらずの技巧が冴え渡っております。持ち上げて落とすというのはサスペンスやミステリの常道ですが、乙一はそこにちょっとした安心感とでも言うような優しさがあって、とても気持ちが良い話になっていたと思う。内容は子育てに苦労する母親の話と言う以外のなにものでもないのだが、その子育てには他人とはちょっと違った苦労があって、それは子供の幻想に属した特殊性にあるのだが、しかし、母親も父親もそれを受け入れた上で頭を悩ませている感じが非常に良かった。うるさくしかったりしていても、そこには”子供を守る”という確固たる意志があるのだ。

「赤い毬」(恩田陸)
恩田陸の幻想的なイメージの迸りが必見であった。そうだよ、恩田陸はこれが無いとなー。その奇譚というしかない物語に付随する、圧倒的で暗いイメージには強く心が惹きつけられた。いつか”たどり着くべきあの場所”のあまりに閉塞した世界の歪さ、それゆえの美しい在り方のせいかもしれない。ストーリー?そんなもんあったか?

「百物語」(北村薫)
北村薫ってホラー(っぽいやつ)も書いていたのか。知らなかった。それはともかく、これが実に正統派なかつ端整な怪談になっていて実に面白かった。恐怖の対象になっているそのものは決して描写しないところも実に上品で素晴らしかったし、どこと無く人間の”情”に絡めた展開も良かった。お父さんの悲しみが際立っているな。

「天使のレシート」(誉田哲也)
実を言うとこの人の作品は初めて読んだんだけど、ちょっと色々と粗さを感じじゃったなー。多分、あまりに端整な北村薫の後に読んでしまったせいもあるんだろうけど。要するに絶対的な存在に操られる人々の運命、という恐怖なんだろうけど、やや登場人物たちが情緒的過ぎたのか、僕の趣味からは外れたかな。”神”の存在も矮小化されてしまった感があるなあ(変に説明なんてしなければ良いのに…)。

「桟敷がたり」(西澤保彦)
相変わらず人間のどす黒く薄汚い部分がこれでもかと描き抜かれる作風は健在であった。謎が明らかにされることで、さらに陰鬱な真相が見出せるあたりにどこにも救いなんざありゃしねえ。生理的嫌悪感が最高潮に達したところで物語をぶった切ることで、居心地の悪さを演出しているのも上手いなあ。それにしてもファンタジーでは全然ないな…。

「10月はSPAMで満ちている」(桜坂洋)
「よく分かる現代魔法」の登場人物の一人である坂崎嘉穂が探偵役となるミステリ。ファンタジーでもダークでもないが、まあ今更な話。いわゆる日常系に位置する作品である。つまり、うっかり見過ごしてしまうような少しだけ不思議な事が日常にあって、その裏では人々のちょっとした思惑が隠れているというやつ。謎は謎として面白いけれど、それよりも嘉穂についての謎(現代魔法を知っている人にとっては謎ではないのだけど)が明らかになるラストには、桜坂洋の以外な(失礼)上手さを感じた。

「哭く姉と嘲う弟」(岩井志摩子)
いやー素晴らしい。淫靡で醜悪な物語で最高です。いくつもの掌編が語られているのだけど、何よりもその語り口のひそやかさがたまらない。後ろ暗い事をやっている共犯意識とでも言うのかな。最後のあれは、語り口を騙るということなんだろうけど、同時に現実から遊離した逃避としての幻想イメージを連想した。でも実際には違うような気もするなあ。なんだろう?

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