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2006.02.02

『オリガ・モリソヴナの反語法』読了

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オリガ・モリソヴナの反語法』(米村万里/集英社文庫)読了。

小説とはディティールが命だと常々思っているのだが、この作品は、まさに圧倒的なディティールに支配されたディティール小説と言えよう。ディティールに拘ると言うのは、つまるところ小説世界のリアリティの追求であって、そのリアリティと言うのは作品のタイプによって変わってくるものではあるけれど、結局のところは、その世界の中で生きている登場人物たちの息遣いが聞こえるかどうか、ということではないか。

語り手である女性翻訳家が、数十年前にバレエのレッスンを受けていた教師、オリガ・モリソヴナの謎めいた過去に魅せられ、その半生を追うという物語なのだが、何より感心したのが時間の流れの描写である。数十年、と一言で言うのは簡単だが、実際にその時間を費やした事実と言うのはなかなか直截には伝わってこないものなのだが、しかし、ここでは数十年前、子供の視点からみたある事件が、現在の視点から見るとまったく違う側面を見せていったり、また、オリガ・モリソヴナの過去を追う過程で、さまざまに人物にその消息を尋ねていくのだけど、しかし、その過程において、それぞれの人物はそれぞれが自分の人生、自分の過去を持ち、生きているのだ、と言う描写によって確かに時間が流転し続けているのだ、ということが実感として分かるところが素晴らしい。

ただ、ある一人のバレエ教師の人生を追うだけの物語が、何でこんなに面白いのだろう、と考えるとそれこそがディティールの力であって、単にバレエ教師のそれだけではなく、それ以外のすべての登場人物たちが生きている”人生”が、読み手に想起させるためなのだろう。ディティールの圧倒的な力強さで語られるのは、多くの人間たちが懸命に”生きた”というただそれだけの物語なのだが、それゆえに生きるということの美しさが、ただ存在するだけで輝いてみえる。

その美しさに、単純な意味で感動した。とても面白い本だと思った。

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コメント

吉兆さん、こんにちは。
プロフィールで「読む人に優しい」文章を目指すと書いてありましたが、とても魅力的な書評だと思いますよ。
こんな風に評することも出来るんだなぁ、と勉強になりました。(私はだらだら書いてしまうケがあって・・・)
ディテールの素晴らしさ・・・同感です。フィクションとは思えないリアリティでした。

投稿: ありま | 2006.02.04 13:43

ありまさん、はじめまして。

はは、過分なお言葉、恐縮です。

このブログに書かれている文章は、普通の意味では書評ではなくて、その本を読んで、自分が何を思ったのか、という点を書くようにしています(他人に本の内容を紹介するのが苦手なもので…)。
論理的でもないし、飛躍も多くてお恥ずかしい限りですが、そのように言っていただけると嬉しいです。

投稿: 吉兆 | 2006.02.04 19:25

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米原万里著(集英社文庫) 2005年Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞作  手 [続きを読む]

受信: 2006.02.04 13:48

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