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2005.12.31

オブ・ザ・イヤー…まあ色々

まあ年末になったことだし、今年読んだ本をを色々振り返ってみた。その中で、「これは世間一般にみても傑作だろう」と思われる作品を、なるべく個人的な嗜好を交えず上げてみた。まあまったく交えないと言うのは不可能だけど。一応、一作者、一作品(あるいは一シリーズ)のみを挙げている。

【一般的に見てもこれ傑作じゃないか?部門】
『四畳半神話大系』 森見登美彦
・薄汚れた四畳半で繰り広げられる紛れもない”SF”作品。パラレルワールドストーリーでもエロゲー構造主義作品とでも解釈出来るけど、とにかくその奇想と流れるように美しい(しかし頭の悪い)文章が心地良い。

『ぴよぴよキングダム』 木村航
・非常に寓話的な要素の強いライトノベル。英文学的な嗜好が読者を選ぶかも知れ無いが、寓意性を含めて良いファンタジーだと思う。

『タイピングハイ! シリーズ』 長森浩平
・続きが出ねー…というシリーズ。ライトノベルにしてハードSFと言う類稀なるジャンルを開拓しているものの、あまりに話題にならなさ過ぎる。打ち切りだけは勘弁して。

『泣き虫 弱虫 諸葛孔明』 酒見賢一
・大嘘孔明伝。酒見賢一と大法螺と大嘘が楽しめる。酒見賢一は前々から変な人だとは思っていたけど、やっぱり変な人でした。大法螺とユーモアを楽しめる人向けだが、それはふざける事とはまったく異なると言う事は理解しておいた方がよいでしょう。

『航路(上)(下)』 コニー・ウィリス
・海洋冒険ものじゃなくて医療…ファンタジー?ミステリー?サスペンス?まあとにかくそんな感じ。全編、「思うように意志の疎通が取れないもどかしさ」に支配された作品で、その意味が解明されるラストシーンには背筋が震える。

『薔薇のマリアシリーズ』 十文字青
・ウィザードリィ風RPG青春冒険小説。RPG的な世界だからこそ説得力のある”リアル”が描けると言う素晴らしい見本だ。現実から乖離していない”痛み”と”喜び”がここにはある。最高。

『電波的な彼女シリーズ』 片山憲太郎
・ある種ライトノベルの見本のような作品。ライトノベル的な過剰さと一般小説のようなバランス感覚が見事と言うか奇跡的。

『絶望系 閉じられた世界』 谷川流
・キャラクター小説のキャラクター達が考察するキャラクター小説論のようなキャラクター小説。ある意味、ライトノベルをここまで解体した作品は空前絶後だと思う。もはやストーリーがどうとかそういうレベルで語る作品ではないな…。

『西の魔女が死んだ』 梨木香歩
・梨木香歩という作家を今まで読んでこなかったのは、ファンタジー者としては大不覚であった。正直すいません。癒し系作家みたいな印象があったのだけど、その皮肉と毒を含めた冷静な眼差しあって、それが描写の美しさと相まって、現実感を失わせないファンタジーになっていると思う。

『ベルカ、吠えないのか?』 古川日出男
・古川日出男を読むことは、僕にとっては正義であり義務。これを落とした直木賞選考委員には怒りよりも憐憫すら感じる。

『荒野の恋 第一部 catch the tail』 桜庭一樹
・萌えゴシックミステリ『GOSIC』や暗黒青春ストーリー『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』など幅広い作風を持つ作家だけど、この本が一番僕の好きな桜庭一樹が入っていると思う。幼い少女が恋をして、戦うと言う話。もはやこれは純文学の領域に入っていると思う。芥川選考委員はこう言う本もあると言うことを知って欲しい(マジです)。

『スラムオンライン』 桜坂洋
・ゲームをひたすらやって来た世代にとってはガード不能な作品。あーそうだよ、コミュニケーションが不器用とか言われたって、それが自分の選んできた事なんだよな。それが誇りを持つと言う事であり、また”個”として生きるという意味でもある。

『サマー/タイム/トラベラー』 新城カズマ
・なんと言うか…青春期のもやもやと、このようにありたかったと言う憧れなない交ぜになって、それに望郷の念と将来への不安を付与した化け物のような青春小説。SF小説への入門書としても最適かも。十代に読んで欲しいなあ。

『たったひとつの冴えたやりかた』 ジェイムズ・ディプトリー・ジュニア
・いやー、今更読んですいません。『愛はさだめ、さだめは死』も凄かったけど、一般性を重視してこちらに。泣き小説(なんだそりゃ)としてもハイレベルだけど、やっぱりSF的な情景がすげえよなあ。イメージをするのが大変なぐらいだが。

『クドリャフカの順番 「十文字」事件』 米澤穂信
・一応”古典部シリーズ”の三作目なので、読む前に『氷菓』と『愚者のエンドロール』を読んでおくと分かり易いかも。とにかく”青春ミステリ”として極上と言える作品で、文化祭の期間が舞台になっているのだけど、”お祭”の浮き立つような高揚というものを上手く捉えていると思う。

『射雕英雄伝』 金庸
・まあ今更ですが。歴史的な事件と主人公たちも問題を絡めたストーリーテリングも良いけど、とにかくひたすらにエンターテインメントのオンパレード。ただただ楽しいです。

『老ヴォールの惑星』 小川一水
・日本の若手SF作家ではこの人はトップクラスだと思う。あと並ぶのは秋山瑞人と古橋秀之、冲方丁な。人間の光の側面に目を向けた作風は、どこか甘さを感じるのだけど、結論に至るまでのシュミレーションが説得力があって、つい納得させられてしまう。

『半分の月がのぼる空シリーズ』 橋本紡
・いやー単なる難病物の泣かせ小説かと思って甘く見てました。難病物ではあるんだけど、”病気”と、引いては”死”というものに対する個々人の取り組みを描いた作品なんですよね。絶対『世界の中心で~』よりもこっちの方が面白いよ!

【今年デビューのライトノベル新人で面白かった部門】
『トウヤのホムラ』 小泉八束
・なんかすげー好き。なんだろうなーこれ。主人公とヒロインの敵でもあり味方でもあると言う関係も良いのだけど、それにまつわる感情のもつれがたまらんですわい。続きはまだか。

『ちーちゃんは悠久の向こう』 日日日
・今年一番の問題作家。デビュー二作目のこの本が一番分かり易い。日日日の作家としてもっとも優れているところは、痛々しい人間の痛々しい行動と言動だと思うので、その意味ではこの作品は十全に役割を果たしていると言える。

『白い花の舞い散る時間 ~ガールズレビュー~』 友桐夏
・いやいや、衝撃度では今年一番かもしれない作品。コバルト文庫と言う少女向け小説のレーベルでありながら(まあこう言う区分も意味をなさなくなってきたと言う事なんだろうが)後半の展開は呆然と言うか開いた口が塞がらないすさまじさ。前半が繊細と言って良いほどに少女小説であったからなおさらだ!

『琥珀の心臓』 瀬尾つかさ
・なんですか、この素晴らしい石川賢は。というのはちょっと冗談ですが、本来26話ぐらいのテレビアニメシリーズでやる事を一冊に凝縮した結果、すさまじい観念小説が生まれました。融合!増殖!ロボット!裏切りと友愛と盛り抱くさんで最高です。いや好きだなあ、これ。

『戦う司書と恋する爆弾』 山形石雄
・これについて語るべきことは少ない。なぜなら「すげえ!」としか言いようが無いからだ。なんつーが、読者を異世界にいざなう事、読者の予想を上回る事、つまり読者を純粋に楽しませる事に極めて忠実な作品であると言えると思う。いや本当に参りました。予想だけど、今後、この作者は絶対ライトノベルの範疇に収まらない作家になると思う。個人的には一番期待度が高い新人です。

『滅びのマヤウェル その仮面をはずして』 岡崎裕信
・これは良い奈須きのこですね、と言うのは半分くらい冗談です。まーオカルト日常系小説(今考えた)としては稀有なるぐらいに出来が良いと思う。


【僕にはちょっと評価不能ですよ部門】
面白いともつまらないとも言えず、ただなんとなく凄い事をやっているような気がするのだけど、しかし、何がスゴイのかが良く分からない作家。評価出来ねー。むしろ僕にこの人たちの凄さを教えて下さい。

『黒白キューピッド』 中村九郎
・あーこの作家はわかんねー。小説しては全然評価出来ないんだけど、なんか見捨てられねー。なんと言うか、小説と言うよりも、文体とか構成レベルで読み手の認識をゆるがせているんじゃないかと思わなくも無いのだが、それって単に構成が破綻しているだけじゃん、ん?と思わなくもない。僕は好きにはなれないけど、もしかしたらすごい事をやってんのかなあ…うーん。

ROOM NO.1310 シリーズ 新井輝
・これは凄いと思う。ただ何が凄いのかが全然他人に説明出来ない凄さで、しかも、この凄さと言うのは、単にギャルゲー的、エロゲー的なセンスを持っていないと理解出来ないかも知れず、それって凄いのかという疑問も感じなくもない。個人的には、これは純文学的な内面をもてなくなった現代において、内面を仮構しようとする試みなのではないか、つまり、ゲームやアニメに耽溺し、それによって人生を生きてきた世代の、自我と言うものを定義しようとする試みなのではないか、と感じているのだが、まあ100%僕も妄想に過ぎないのだろう。きっと。多分。

日日日作品全般
あーわかんねー。読めば読むほどわかんねー。上手いのか下手なのかも、天然なのか技巧なのかすらわかんねー。はっきり言って、この作者は僕の理解を越えている。単に未熟なだけだと言う気もするのだが、それだけでは済ませられないような気もする。とにかく途方にくれています。なんとかしてください。

【冷静に読めない類の本部門】
あまりにも思い入れが強すぎて全然客観できません。客観なんてする意味もねえ!という作品。

『サーラの冒険(5) 幸せをつかみたい!』 山本弘
・おお…未だに信じられない9年ぶりの新刊でございます。思えば、この作品から僕の好みが”超人<凡人”に変わったんだよなー。僕にとって記念碑的作品なんだけど、出来れば化石になる前に完結して欲しいよ。

『封仙娘娘追宝録(9) 刃を砕く復讐者(下)』
・えっと、これも5年だか6年だかぶりの新刊。この作家はもうちょっと売れてもいいはずなんだけど、こんなに間が空いてしまってはしょうがないのか…。いや、この作家は凄いよ?本当に。多分。

『アルスラーン戦記(11) 魔軍襲来』 田中芳樹
・僕の青春の一時期は、間違いなく田中芳樹とともにあった!と言っても過言ではない。僕が初めて読んだアルスラーン戦記は、まだ角川スニーカー文庫が創刊する前だったけど、おそらくこの作品がなければキャラクター小説にハマる事もなかっただろう。しかし、作品の基準が田中芳樹になってしまったせいで、歴史ファンタジー、群像劇に対する評価が辛くなることなること。はっきりいって、ライトノベル系で面白いと思った歴史ファンタジーや群像劇なんてないもんね。

古川日出男の作品全部
・もうこの作家の作品は全然冷静に読めねえよ!読むたびに心の深いところを揺さぶられてしまって大変だ。ドライブの効いた文体だとかそう言う表面的な事でなしに、ただただ読むだけで”生きる”と言う事に関する認識を揺らがせてくれる。

冲方丁の作品全部
・この作家は、実の所、僕とほとんど同世代な上に、デビュー当時から読み続けている作家なんだけど、その距離感の近さゆえに妬ましさすら感じる。なんで僕には出来ないで、この人にはこんな話がかけるんだよ…という理不尽な嫉妬と言うか。すげーよなー。ただ、マルドゥック・スクランブルから作品にブレを感じなくなったのが気にかかるなあ。それ以前の冲方丁は人生=小説を書く事、とでも言うような切実さを感じたが、最近の作品にはそれを感じない。仕事で作っている感じなんだよなあ…。でも、多分この作家には一生ついていくよ!僕にとってはそーゆー作家。
 
 
 
 
まあ、大体今年読んだ本の中ではこんなところが注目だった。来年はどんな本が出るのかねえ。

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