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2005.10.04

『琥珀の心臓』読了

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琥珀の心臓』(瀬尾つかさ/富士見ファンタジア文庫)を読んだ。す、素晴らしい。

ディティールの話をしてしまえば、異世界に召還された高校生たちが、巨大ロボットに乗って竜と戦うと言うアニメやゲームにいくらでもある話に過ぎない。しかし、その平凡とさえ言える設定を越えて強烈な印象を与えるのは、圧倒的な密度で構築された異世界と、悠久を感じさせる幻想、見えないものを語ろうとする観念のせいだろうと思う。すさまじい密度で注ぎ込まれたそれらは、「漂流物」としての物語を半ば破綻させながらも強引とさえ言える力技で結末を叩きつける。やりたい事、語りたい事をひたすらにぶち込み、それでいながら冷めた計算を感じさせるあたりに作者のクールさが感じられる。だが、何より僕が良いと思ったのは、この作品は『物語』が主役であると言う点だ。

「漂流物」として破綻しているのは、そもそも一クラス全部が異世界に召還された時点でまとめきれるはずも無い構成上の破綻であって(富士見の版一冊でまとめられるわけがない)、むしろそれを日記と言う形で処理したのは発想の転換と言うかとにかく感心した。そうして人間関係を整理して、主人公の遙、親友の優子、幼馴染の敦也に凝縮させている。彼らの間のドラマが中心にある。その周囲に”彼方のものたち”、”九人委員会”、”クエルト族”、”龍”、”巨人”と言うファンタジー好きなら背筋がゾクゾクしてくるような設定があるが、しかし、それらは(この物語外の広がりを感じさせる役割は果たしているものの)重要なものでは無い。

繰り返し語られるのは、遙と優子の友情と葛藤であり、遙と敦也の無私な愛であり、見捨てられたものたちの怨嗟であり、何より前へ進もうと言う意志である。つまり、意志が生み出す葛藤が根底にあり、その葛藤が徹底的に突き詰められているところにこの作品の骨子であるように思う。無論、主人公三人に対する描写の徹底のため、世界観の説明、キャラクター描写の省略をもたらし、そもそも表向きのストーリーである龍との戦いすら重要ではなくなってしまっている。本来ならば、これは欠点かも知れない。

だが、この物語はこれでいいのだ。そもそも、これは遙という存在の(勿論、優子と敦也、その他の人達にとっての)長い長い物語の内、ほんの一瞬とさえ言える時間を切り取ったに過ぎない物語だからだ。この物語が始まる前に遙は生きて来たのだし、この物語が終わったあとでも彼女の存在は続くのだ。ほんの一瞬の、出会いと別れ、悲しみと怒り、友情と憎悪。それらを切り取ったと思えるこの作品は、十全に彼女らの物語を描ききっている。

ロボットとか、敵とか、異世界と言うのは、思うに単なる舞台設定に過ぎず、この作品ではあまり重要視されてはいないようなのだが、だからと言ってこの作品を否定するのはあまりに安易ではなかろうか、と思う次第である。

この作者には、今後も大いに期待していきたい。出来れば大長編でお願いします(多分、この作者はある程度の長さが無いとディティールがディティールのままで終わってしまいそうだ。この作品のように)。

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