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2005.09.13

『半分の月がのぼる空(1)~(5)』読了

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半分の月がのぼる空(1)~(5)』(橋本紡/電撃文庫)を読了。表紙とリンク先は一巻です。

これは良いなあ。魔法も奇跡も超能力も世界の危機も冒険も普通小説である。曜日シリーズの方と同じ傾向の作品だが、橋本紡が本来の資質である繊細さを”難病物”と言う、ある意味分かりやすいフォーマットに落とし込まれているので、ただただ日常を切り取った曜日シリーズに比べると、随分一般性を獲得しているように思われる。
ヒロインのキャラクター造型も、いわゆるライトノベル的なキャラ立てがなされており、良くも悪くも電撃文庫的な味付けがされているところは、まあ、人それぞれの好みによるかも知れない。ただまあ、僕は(リアルでもフィクションでも)性格が悪くてわがままな女の子が好きなので、なかなか面白く感じました。あー今だったらツンデレと表現されるのかもしれないが、そんな事を言い出したら何でもかんでもツンデレになってしまうので、実の所、安易にツンデレという言葉を使うのは好きじゃないのだが、考えてみたら自分でも結構使っていた。流行って恐ろしい。

閑話休題。

とにかくこの物語の良いところは、大きな事件など何一つ起こらないのにも関わらず、少年と少女、そしてその周りにいる人々の一瞬の感情を切り取ることが実に巧みだと言う所であって、病院と言う生と死が存在する場所で、主人公が受け取るさまざまな出来事は、しかし、きちんと言語化されること無く、なにかもやもやとした曖昧さを維持したまま主人公は受け取る。その”何か”と言うものは、言葉にしては失われてしまう類の掛け替えの無い”何か”であって、それをもやもやとしたまま切り出すことが出来るのがこの作者の凄いところだと思う。キャラクター的にも際立ったところが無くて、むしろ現実的な、嫌なところも良いところもある普通に自分勝手な人物像を描けると言うところも良いと思う(例えば夏目医師などは実に困ったコドモオトナであって、高校生である主人公を本気でボコボコにしたり、焦りや怒りをぶちまけたりするのだけど、最近になって『大人』などと言う生き物は存在しない事に気が付いてからは、こういう純粋さがひどく切ないものに感じられるようになった)。

もっとも最初の方は、ごく一般的な難病ものの粋を得ないのだけど、後半に行くに連れて”生きる”事という問いかけが持ち出されていくと、いわゆる難病ものにある”泣かせ”の方向性を逸脱し始める。”泣かせ”と言うのは非常に読者にとって強い感情を引き起こす方法論である。それは一定の方程式で導き出せるような技術的なものであるのだが、橋本紡はそんな技法的なものを一瞬で乗り越えてしまう。確かに不条理で、主人公たちにはどうしようもない不幸が降り続くのだが、しかし、そこには安易な同情(泣き)を拒む強いものがある。この作者が真面目だなあ、と思うのはまさにそんなところであって、これもまた言語化すれば大変陳腐なものになりかねない尊い何かを、愚直なまでに描き続ける作家なのだと思った。

決して上手い作家では無いとは思うのだけど、言葉に出来ない何かを言葉にしないまま語る部分と言うのは、実に文学的なセンスであると思う。その意味では稀有な作家だと思う。

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