『最果てのイマ』その4
久しぶりに『最果てのイマ』(XUSE)について書こうと思う。今まで書いていないだけで、ゲーム自体はちまちまと再読していたのだけど、読めば読むほど書きたい事がまとまらなくなっていくので、とりあえず冷却期間を置いていました。
とは言え、今回書くにあたって結論が出たかと言うと、全然そんなことは無くて、やっぱりまとまらないままなんですが、まあ、書きたいことが出てきたので書こうかな、と。
例によってネタバレ全開ですが、そんな事を言いつつも大したネタバレではなかった前と違って、今回は本当の意味で洒落にならんネタバレであります。ゲームをやっていない人は勿論、金輪際このゲームをやらないと言う人も読まない方が良いでしょう。読んでよいのはクリアした人だけ!君と僕との約束だ!(何を言っているの?)
・デモムービーについて
最近、気が付くと『最果てのイマ』のデモムービーを見てしまう…。暇があると見ているので、なんかの病気かと自分でも思わないでもない。サブリミナルでも入っているのか。
それにしても不思議なデモだ。仮にもエロゲーのムービーなのに、ほぼ全編に渡って田中ロミオの文章が挿入されている。絵も音楽も、どちらかと言うと全面には出てこなくて、文章こそがこの作品の売りであると言う意図がよくわかる構成になっていて、XUSEは良く分かっているなあ、と思いました。しかもよく見るとネタバレ全開…。
・エピローグを読んで思った事。
実はこれ、かなり絶望的なエピローグのような気がする。それはどういう事かと言うと、実の所この終わり方では忍が最初に切望していたものは何一つ得られていないからだ。忍が何よりも求めていたのは、自らの支配力の及ばない絶対の他者の存在であり、その他者と繋がりたいという欲望が根底にあった。そのために彼は聖域を作ったのだし、自らの支配をなるべく施さないように注意深く振舞った。存在そのものが異質な自分の上に幾重にも仮面を被り、誰にも侵される事の無い”他者との交流”を模倣したのである。
しかし、この結末に至った時点で、彼にとって真なる他者は存在しない。もともと忍がもっとも恐れていた”全人類の人格的統合”を行った末に得たものは、唯一絶対なる自我を得た貴宮忍と言う名をもった人類個体であり、そこには他者は存在しないのだ。戦後に置いても、忍に対して害意を抱く事の出来る人間は存在せず、彼の行為はすべて肯定され、人類は変質し、彼に好意を持つ事そのものが人類としての基本事項となった世界。そんな世界で彼は生きる事を余儀なくされる。豪屋大介の『デビル17』でも書いた事だが、その世界は忍にとってどこまでも都合の良い理想の牢獄そのものになるだろう。それこそが絶望と言うものだ。たとえ忍自身の能力の低下から、完全なる支配を行う事は出来なくなったとしても、彼にとって未知であり不安でり恐怖であるコミュニケーションの存在は既に無い。彼の”他者”を得ようとする試みは失敗に終わったのだ。それも永遠に。
しかし、実はまったく希望が無いわけでは無い。それはイマの存在だ。彼女は一年に渡って忍の治療を行い、そして自ら犠牲になって消えていく。消えた理由については、作品内において忍の脳組織の治療のためとされているが、僕はそれだけではないと感じられるのだ。つまり、彼女の存在は、忍が王として存在する上で無くてはならないファクターであるが、同時にその能力そのものが忍の他者性の喪失を招く結果となった。当然である。彼は生まれながらに人間の規格外となり、人間が当たり前に感知する事の出来ない(あるいは感知しすぎる)特異性を抱えたまま生きている。そんな忍が戦後に存在したら?それこそ完全に他者を失う事になったと思う。つまり、イマが言う自己犠牲と言うのは、そんな人間の精神の奥深くまでアクセスし支配する彼の能力そのものを失わせる事で、忍に”他者を理解出来なくさせた”事なのではないか。つまり、”人間には他者を理解する事など出来ない”が”想像する事は出来る”し”そう信じる事が出来る”と言う事。それは幻想だ。理解できたような錯覚。たとえ本当は他者が存在せず、忍は絶対の孤独の中にあるのだと言うのが真実だとしても、それを確かめる術の無い状態にすること。もしかしたら、この世に他者など存在すると言う事自体が幻想だとしても、それを信じる事。それこそが希望なのではないか、と思えるのである。それはまさにパンドラの箱の如く、知らないでいられるからこその希望であるかもしれない。それでもなお、人は他者の繋がる事が出来ると信じる事が、”個”としての孤独を抱え込んだ我々に出来る唯一の希望なのではないか、と言うのが現時点での自分の解釈である。
・書いていた思ったが、単にごく当たり前のことばかり書いているような気がしてきた。恥ずかしいので消そうかと思ったが、持ったいないし、覚え書きと言うことでご勘弁いただきたい。
・つーか、田中ロミオはいつも同じテーマで書いているよな…。
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