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2005.07.27

『奔流』読了

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奔流』(田中芳樹/洋伝社文庫)を読んだ。最近、田中芳樹の中国物には伊藤勢のイラスト、という図式が定まったいるように思われる。漫画的でありながら絵画的でもある不思議なイラストが面白い味になっている気がしますね。

内容については言うまでも無く面白かった。というか滅茶苦茶面白かった。
田中芳樹の書く中国歴史小説を読むのも久しぶりのような気がするけど、何でこんなに面白いのだろう。それを考えてみると、やはりキャラクターの魅力と、歴史の壮大な流れを読み手に感じさせてくれる描写なのだろう、という至極当たり前の結論に至る。そこに至る結論には色々あったりするのだけど、まあそう言うことは他にも考察している人がいるだろうから省略(他力本願)。

とにかく、決して奇を衒ったキャラクター描写はしないものの、丁寧で多面的な描写が生み出す人物的な魅力はまことに素晴らしいの一言である。人間の陽性の魅力を描写しながらも、同時に暗い情念、どうしようもない愚かさを抱いた人間を描ける作家はそうはいないと思う。つくづくライトノベルを読んでいて思うのは、人間性というものに対するあまりに一面的な(ある意味楽観的な)価値観であり、愚かで醜悪な恐惰と同時に気高く力強い美しさの両方を、同時に持ち合わせるのが人間であると感じる僕にとっては不満なところなのであります(余談だが、それゆえにライトノベルの中では、僕にとって絶対に読めない作品と言うのが存在する。具体的なタイトルを挙げるのは止めるが、例えば、多くのキャラクターが入り乱れる群像劇でありながら、登場人物たちの人格が一面的で、あたかも物語を勧めるためのコマでしかないと感じさせる作品の事である)。人間は、いつも勇敢であれるわけではない、と言う至極当たり前のことなんだけどね…。

話が逸れたけど内容について。
三国史の時代から大分下った南北朝時代における大激戦「鐘離の戦い」を舞台で紡ぎだされる歴史ロマン。南朝、梁の若き名将、陳慶之を主要な人物に置き、数多くの登場人物たちが繰り広げる群像劇である。そこには野心と欲望、恋と悲劇が詰め込まれ、何十万人の兵士達が激突する大合戦。そんな大スペクタクルを、田中芳樹はからりと爽やかとさえ言える語り口で語って見せる。数多くの登場人物たちを見せながら、少しも混乱を生じさせない筆致も見事だが、やはり何より素晴らしいのは、過去と未来に思いを馳せるその視点だ。この物語そのものはある一つの戦いを語っているに過ぎないが、しかし、それら人物たちにも当然の事ながら過去があり、そして未来がある。そして国にも過去があり未来がある。この作品だけではなく、それに続く時間を感じさせてくれる点が、まさしく歴史小説の醍醐味だろうと思う。

田中芳樹の本の面白さを久しぶりに感じた一作でした。

…これで、本当にもっと作品を書いてくれたらなあ…。

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