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2005.07.11

『時間のかかる彫刻』読了

また感想を書くのをサボってしまった。リハビリを兼ねて書く。

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時間のかかる彫刻』(シオドア・スタージョン/ハヤカワ文庫SF)を読んだ。スタージョンを読むのはこれが2冊目となる。なのでスタージョンと言う作家の個性を十全に理解しているとはいい難いが、それにしても不思議な作家だと思う。一応SFの範疇に入る作品でありながら、ほとんど設定から見るに奇抜な部分は無い。半ば普通小説ともいうべき作品ばかりなのだが、作品に混じるほんのわずかなブレが、なんとも奇妙な味わいを生み出している。ああ、これがセンスオブワンダーってやつなのかなあ。

以下各話感想

「ここに、そしてイーゼルに」
まあ、そのまんまスタージョンの心の葛藤、と思い込むほどにうぶではないが、それにしても私小説の匂いが濃い作品。延々と神話的冒険談が続くのには一体なんの意味が…とちょっと理解できなかったのは秘密だ。いや、ロゲーロのすっとぼけた冒険や、ジャイルズ自身の悶々した放浪とか、読んでいるだけでも結構面白いんだけどね。結末がちょっと優等生的な回答っぽい気がしたのだが、これは人それぞれか。

「時間のかかる彫刻」
表題作。ああ、これは大変重要な事を言っている…様な気がする。うん、それは間違い無いのだけど、何分読んでから大分経っているのものでよくわからない。ひたすら男と女の対話が繰り広げられるという奇妙な構成だけど、”時間のかかる彫刻”を取り上げてのやり取りはなんともサスペンスフルだと思う。

「きみなんだ!」
これまた普通の小説。訳文か原文のどちらに原因があるのかは分からないが、全体を奇妙なリズムが覆っていて面白い。”きみなんだ!”で始まり”きみなんだ”で終わる内容も、まあこれしかない終わり方ではあるよな。

「ジョーイの面倒を見て」
ぎゃはははは。大笑い。笑っている内容ではないが。皮肉と(かなりブラックな)ユーモアに満ち溢れた良い作品だなあ。全然無自覚な主人公がたまらない。例によってSFの欠片も無い。

「箱」
ぐは、参った。スタージョンって手を変え品を変えて作品を書くなあ。どこか童話的でそれゆえの残酷さを持ちながら、そこで語られるのはまさしく人間の尊厳と愛の物語。わかっちゃいるんだがラストには不覚にも揺り動かされる。いや、本当にオチは分かっていたのだが。

「人の心が見抜けた女」
またブラックだ…。人間のどうしようもない救われなさと(あるいは救い?)、それを見つめてしまった女の物語。ラストの一文のあまりの絶望的な描写には気分が重くなる。文章自体はからりと爽やかであるのが余計にその印象は強い。

「ジョリー、食い違う」
いやもう本当に救いもへったくれもねえ!どうしようもないくそったれな日常を拒否して冒険を志し、しかしてその冒険に拒否され日常に取り残された主人公が、その日常にも見捨てられる過程が描かれてる。もうやだ。僕、もう帰る!(幼児化しています)

「<ない>のだった――本当だ!」
これはバカSF?立った一つの大法螺からよくもこんな変てこな話を書けるなあ。開いた口が塞がりません。政治とか権力を徹底的に愚弄しておりますな。

「茶色の靴」
ああ、これは”時間のかかる彫刻”の変奏曲ですね。愛か世界か。まあそう言う話なんでしょうか(多分間違っていると思う)。

「フレミス伯父さん」
まあなんつーか、僕もフレミス伯父さんに叩かれたいです。例えそれが矯正されたものであっても、それはそれで幸せそうだ。みんなヒーヒー言っているのだなあ。ああ、黒い。

「統率者ドーンの<型>」
…ある意味驚愕のラスト。なんじゃそりゃ。およそ、あらゆる独裁者を打倒する物語はあれど、こんな革命を起こす話は無いんじゃねーか?と思ってしまう。わからねえ…。

「自殺」
ああん、本当にスタージョンは性格が悪い。こんな作品を最後に持ってくるとは。てっきりラストで一波乱あるかと思ったじゃないか。こfれはぶっちゃけ、死と再生の物語ですね。死への痛みと恐怖を知った男が、生を自らでで掴み取るまでの物語。普通に感動的なんだが、しかし、なんだこの文学の香りは。スタージョンの強烈な思弁性は、容易くSFの垣根を越えてしまうのだなあ…何てことを思いました。

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