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2005.06.19

『ROOM NO.1301 しょーとすとーりーず・わん』読了

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ROOM NO.1301 しょーとすとーりーず・わん』(新井輝/富士見ミステリー文庫)を読んだ。とても面白い。というか、実はこの短編集はすばらしい出来なのではないかと言う思いが、読み返すたびに沸いてきた。

今回はタイトルの通り短編集となっていて、もっとも掲載紙はあまりよくわからない。ドラマガ連載なのかもしれないが、ドラマガを買わなくなってから既に十数年の年寄りからしては未知の世界である。というか、考えてみたらこの作品は、そのあたりが対象となる小説なのか…というのは脱線が過ぎるのでここで止める。

しかし、つくづく不思議な話だと思う。この話が不思議なのは、見た目には凡百の萌え小説そのものであり、出てくる要素そのものは漫画やゲームの影響の下から一歩も抜け出てはいないのにもかかわらず、キャラクターの造型、物語の展開に決定的なズレがある所だと思う。たとえば冒頭作の「僕と綾さんと素敵な思い出」については、ヒロインの一人である綾さんが頭を打って人格が変わると言うところから始まる(これもまたアニメやゲームの要素そのものである)。ところが、本来ならば彼女の人格転換が話の肝になるのがセオリーである所なのに、この話はそれ自体はまったく本題ではないのである。むしろ変わってしまった綾さんを巡って、キャラクターそれぞれが、自分と綾さんと、そしてそれらを含めた人間関係の因果に思いを巡らせると言うのが主題なのだ。綾さんの別人格(綾夜さんと言う)が起こす行動が、逆にそれぞれの綾さんに対する感情を再度問い掛ける役目を果たしているのだろう。そして、主人公の健一は、そんな綾夜の行動から、逆に綾さん自身の抱える哀しみについて思いを巡らせる。その意味ではこれは綾さんの物語とも言えるのだが、本当のところは、彼らの”関係”の移り変わりこそが主人公そのものだと言えるのだろう。変わらない関係などなく、終わらない関係などもない。それをそれぞれに自覚させると言うところで物語りは終わるのだ。だから、綺夜さん自身についての言及は少なく、彼女はほとんど物語に波乱を起こさずひっそりと消えてしまう。しかし、それでありながら綺夜さんの食事の支度を見た健一が、「少し哀しく」感じるシーンを挿入するところがこの作者の非凡なところであると思う。淡々とした健一の心の動きが、極めて繊細で良いと思うのだ。

その点を考えてみるならば、このシリーズそのものが主人公達の”関係性”を巡る問題であると言えるだろう。今更言うまでもないが、このシリーズは第一巻の冒頭にてすでに彼らの関係は「終わってしまった」事が明言されている。その終着へ向けて少しずつ日常と思い出を積み上げ、彼らの関係は移ろい行く過程を描き続けている。それはいつか終わる事が決定された日々であり、別れを前提にした出会いである。だからこそその物語はどこか緊張感を孕んでいるのであろう。

この作者の特異な点は、そうした繊細と言っても良い人々の心情を、ギャルゲー的、エロゲー的なモチーフの裏に隠したまま(あるいは積極的に比喩として)語る部分なのではないかと感じるのである。

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コメント

そうでしたか。それだったら、買って読んでみよう。
いや、ちょっと気になっていたのだけど、手を出せないでいたものだから…。参考になりました。

それから、本箱初めて見ました。良かったら冷やかしてみて下さいな。

投稿: きつねのるーと | 2005.06.20 00:45

や、正直言ってエロゲー的なガジェットがあまりにもあからさま過ぎるので、そういうのに慣れていないときついと思います。そう言うのが嫌いじゃなければ…と言ったところですか。

いや、僕は傑作になりうる作品だと思っているのですけどね。


本箱を覗かせていただきました。
レイアウト一つとっても気持ちが行き届いておりますなあ…。僕のようなてきとーなブログとは大違い。かっこいいなあ。

投稿: 吉兆 | 2005.06.20 22:01

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