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2005.06.04

『ガダラの豚(上)(中)(下)』読了

『ガタラの豚(上)(中)(下)』を読み終わった。吃驚するぐらいに面白い。僕が今まで読んだ中島らも(空のオルゴールと酒気帯び車椅子)と比べると、作品の書き込み量が全然違うよ。それまでの砕けすぎなまでに砕けてグダグダすれすれの脱力ぶりも非凡なセンスだと思ったが、こちらはもっと真面目に、一つ一つ石を積み上げるが如くに堅実な描写を繰り返している。伊達に三冊も時間を費やしていねーなー。

僕の友人で、この本を読んだ人間の話を聞いてみたら、要するにこれは『空のオルゴール』でやっていた事を引き伸ばしただけじゃん、という言い方をしていたけど(無論、ガタラの豚もすごく面白かったと言う事は前提で)、僕としては、きちんと土台を汲み上げ、堅実に石を積み上げていくこの作品はとても良いと思うな。つかグレートですよ。

以下、各巻感想

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ガダラの豚Ⅰ
まあ導入編と言うか、登場人物の紹介編と言ったところ。主人公である大生部教授とその家族の現在と過去が語られる。一巻丸ごと費やして大生部一家の崩壊と再生を描いており、まあその過程は中島らもらしい軽妙な語り口が冴えていてなかなか面白い。一応ネタ的には新興宗教ものになっていて、それに嵌ってしまった奥さんのために新興宗教のトリックを暴くと言う話。書いていて思ったが、本当に『TRICK』みたいだな。
軽妙な語り口の中にも、人の心をじわじわと蝕んでいく悪意の描写が印象的だ。中島らもは、実のところ”恐怖”を描くのが非常に上手い作家と言う気がする。とある出来事を通して、その出来事を起こした人の冷たく凍えるような悪意。気付かないところから忍び寄る脅威。それがユーモアをたたえた描写に紛れ込んでいて、ある時を境にふいに顔を覗かせる瞬間がたまらなく恐ろしい。すげー作家だなあ…。
ところで、新興宗教関係の場面を呼んでいたら、中学生の頃(だったかな…)に読んだ『ザンヤルマの剣士』を思い出した。時期的にも同じ時期の作品だし、時事的な内容だったのかな…。この頃はオウムの事件はまだだったっけ…(既に記憶が…日本人の悪癖だ)。

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ガダラの豚Ⅱ
舞台はうって変わってアフリカへ。ようやく本編の始まりである。作者の勤勉さの賜物か、アフリカの”呪術”についての描写が非常に濃くて楽しい。ここで言う”呪術”と言うのは、いわゆる超常的な能力のことではなく、同一の文化を持つ共同体の中で機能するある種の概念の事だ…僕が理解している範囲では。つまり、共有する文化の中で起こる現象について、体系化された理論に基いた世界の解読する方法のことなのだろうと思う。これは迷信ではなく、その文化の中では真実なのだ。それを科学的ではないと一蹴することは簡単だが、それを言ったらそれだって科学と言う名の迷信を信じているに過ぎないのだから。
話が逸れた。
ついにこの物語中最大の敵であるパキリの登場である。このパキリの持つ悪のプレッシャーはもの凄く、彼の巻き起こす怖気を奮う恐怖は特筆に価すると思う。なんつーか。パキリ関係のエピソードは不安感と生理的嫌悪感をこの上なく刺激してくれるもので、読んでいるだけでこいつはやべえ、と思ってしまう。暢気な大生部教授たちの牧歌的な場面の正反対だ。こんなところも作者の恐怖の描き方の上手さを感じた。
今さて、今回株を上げたのはスプーン曲げの超能力者、清川君だろうな。Ⅰではなんて性格の悪いやつだろうと思ったものだけど、存外気の良い兄ちゃんの側面が現れてきて良いキャラクターだなあ。

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ガダラの豚Ⅲ
最終巻にしてクライマックス。これまでの堅実に積み上げてきた描写の上に、ついにどっかんと荒唐無稽度が炸裂し、しかし、それまで積み上げてきた土台がものを言っているので滑稽とも言える描写が緊迫感のあるものになっているのが良いよなあ。パキリの力が呪術だけではなく、東洋、西洋の様々な知識に裏打ちされたものだというのもⅡの呪術に関するエピソードがあったからこそ凄さが分かるんだよなー。
パキリの”キジーツ”を奪った大生部たちに恐るべき魔の手が迫るという描写は、一体どこのホラー映画かと思った。凄惨というか、もう、登場人物がゴミのように無意味に殺されていく展開は、そのあまりの唐突さ故のギャップが衝撃を強めている。決して派手ではない文章で、描写のギャップだけで恐怖を演出する中島らもは心底すげえと思う。…まあ、どこまで計算してやっているのか、実は良く分からなかったりするんだけどね。実は天然なのかもしれない。
ところでこの落とし方はありえねえ!最後にいきなり教授の覚醒はあまりもあんまりな唐突な展開に小生、不覚にも大笑い。降参。
ここまで堅実に進めてきたのに最後の最後にやってくれたなあ。やっぱり中島らもは中島らもだったという事を認識した。ああ、変な作家(褒め言葉)。

とても面白かったです。

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コメント

一般的に。

「空のオルゴール」と「酒気帯び車椅子」以外の中島らもは良いという話ですしね。一般的には。

投稿: みしまっち | 2005.06.07 18:30

まーじーでー。それしか読んでいない自分は一体…。

まあ、他人は他人。自分は自分だけど。

投稿: 吉兆 | 2005.06.08 21:23

普段小説そのものをよまないのですが,とあるかたからの勧めで読了しました.

細かい描写すべてを読み込んではいなかったのですが,Ⅰ,Ⅱ巻での登場人物がどんどん倒れていくところもさることながら,個人的には最後には勝ってほっとしました(笑)

投稿: ながふね | 2012.03.25 23:24

懐かしいですね。今となっては読んだ記憶も遠い彼方になりますが、いま思うと中島らもという作家はほんとエンタメ精神の権化だったんだと思います。

投稿: 吉兆 | 2012.03.27 00:02

しかし、久しぶりに読むと自分の感想が若い…。読んでいて恥ずかしくなって来るな。今の自分だったら絶対書かないようなことを平気で書いてるぞ。

投稿: 吉兆 | 2012.03.27 00:04

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