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2005.06.10

『仄暗い水の底から』読了

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仄暗い水の底から』(鈴木光司/角川ホラー文庫)を読んだ。とても面白い。

角川ホラー文庫から発売された短編集。とは言え、いわゆるホラーと呼べるような、超自然的な現象が明確に描写されている作品はあまり多くなく、精々ちょっと不思議な出来事が起こったぐらいの話が多い。ホラーとは全然関係ない話も多いしね。というか、そもそも、鈴木光司と言う作家はあまりホラーを書いても怖くない作家であるのであまりホラーに拘らないのは正解であろう。大体人間の力で克服できる恐怖なんてどうやって怖がれば良いんだ?

各話感想
「浮遊する水」
一番ホラーっぽい話。焦点となる恐怖の実像がはっきりしないまま物語は終わるので、微妙なすわりの悪さが物語りに奇妙な味を残している。まあ、今となってさほど独創的な手法ではないが。

「孤島」
まあ、なんつーか良く分からんのだが、人類の種を残そうと言う要求には、個人の意志など問題にならんくらい小さいものなんだろうなあ。

「穴ぐら」
鈴木光司の書く物語には暴力的な男性原理と裏腹のロマンティズム、強い男の女々しさ見たいなところがあると思うけど、これなんかその典型かな。まあ、どっちかっつーと暴力性に溺れた男の顛末みたいな展開だけど。

「夢の島クルーズ」
やっぱり恐怖ってのは正体が未知だからこそ恐ろしいんだよな。はっきりの正体が現れない恐怖が良かった。どこか怖さの中にもユーモラスな感じも良い。しかし、そんな怪談であっても、自分の力で危機の乗り越えてしまう主人公(と言うよりはそんな話を書いてしまう作者)が面白いなあ。つくづくホラーの書けない作家だと思う。

「漂流船」
うわー、普通のホラーだ。怪談というよりはホラーという作品で、舞台が日本である必要もあまりないよなあ。でも怖さと言う意味では一番怖かった。じわじわと来るボディーブローのような怖さがたまらねえ。なんだよ、ちゃんと書けるじゃないか。

「ウォーター・カラー」
凄く上手い。いやいや、なるほどね、こうやって落とすわけですか。作品としては一番面白かった。作者のじわじわと来るホラー描写が続くうちに、恐怖が高まったそのオチのギャップは見事。ただ、地の文で嘘をついているわけだから、アンフェアではあるような気がしないでもない。

「海に沈む森」
もうホラー短編集に入れる必要は全然ないだろう、という気もしないでもない。極限状態に追い込まれた人間の尊厳と勇気を描く、という見事なまでに鈴木光司の小説。こういう作品を書かせると上手いですねえ。とても男性的な作品だと思います。

「プロローグ」と「エピローグ」
短編集の”箱”の部分であります。まあ、別段特に言う事はないのだけど、ちょっと気になるところがあった。と言うのは、もともと鈴木光司と言う作家は、僕にとってなんとも評価の困る作家であり、この人の書く作品はとても上手いと思うし実際面白いのだが、ところどころで表出してくる鈴木光司の生の部分が気に入らないと言うところがある。なんつーか、ポリシーと言うか、大袈裟に言えば生き方の指針の違いと言うか。男性的でマッチョな部分が無自覚に現れている感じが気になるのだよな…。ここで気になったのは、おばあさんが明日葉の葉をむしる事で生命力を確認する場面。何故葉っぱをちぎる事で生命力を確認する事になるのよ?んでまた明日も実に来てちぎりに来るって?

マッチョだなあ…。

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