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2005.04.25

『平井骸惚此中ニ有リ』読了

『平井骸惚此中ニ有リ』(田代裕彦/富士見ミステリー文庫)の其一、其弐、其参を読了。富士ミスってなんて読み易いんだろう…。本を読む気力が減退していると言うのに読み始めたら瞬読。素晴らしい。問題はコストパフォーマンスが悪すぎると言う事か。540円も払っているのに1時間も時間が潰せないってのはどうなのよ?

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平井骸惚此中ニ有リ

時は大正十二年。まだまだ世界には闇が完全に払拭されていなかった頃。天下の帝大生である河上太一は探偵小説家、平井骸惚に弟子入りを申し込む。あまりに奇矯なその行動に多いに渋る小説家だったが奥方の口添えもあり、居候とさせてもらうも、しかし弟子入りは認められず、また娘の涼嬢には頭が上がらず日々を過ごす。そんなある日、先生の恩人である池谷是人が不審な死を遂げた。「これは自殺ではない」という先生の言葉に触発され、謎を解けば弟子にしてもらう約束を取り付け、太一は意気揚揚と事件に取り組んだ…。

これは確かに本格ミステリの系譜に連なる作品であります。少なくとも、僕が読んできた富士見ミステリー文庫作品の中ではもっともミステリーとして面白かったですな。
探偵役である平井骸惚先生は、基本的には物語がクライマックスを迎えるまで座して動かず、基本は帝大生(現在は休学中)である河上太一君の視点で進められます。この骸惚先生は探偵小説家でありながら「素人探偵は現実の事件に首をつっこんではいけない」という信念を持っているため、太一君が事件に関わる事を、基本的には良しとしていない。とは言うものの、太一君が困った時には時々ヒントをくれたりしてくれるし、または事件が放置できない状況になると重い腰を上げてくるあたり、自分の言っている事を徹底しきれていないところがある。しかし、骸惚先生が動くのは、常に自分の周囲の人間が傷つきそうな時なのであり、こういう人間的なところがあるのが探偵役としての平井骸惚の特徴かな。探偵であるよりも何よりも”大人”なんだよなあ…ライトノベルにあるまじき程に。

現実的なトリックと、そのトリックが成立する状況を視点を変える事によって成立させる屁理屈ぶりは、なるほど京極夏彦の系統である事を思わせます。つまり物理的なトリックよりも、何故そのようなトリックが成立してしまうのかと言う事の理論武装が巧みで、読者を煙に巻くその手腕はなかなか良い感じ。京極夏彦の系統のミステリって富士ミスでは珍しいような気がするけど…どうなんでしょ?

もちろん富士ミスらしく、LOVEも忘れちゃいけねえ。ヒロインである涼(すず)嬢は、太一君との最悪の出会いを経た後、持ち前の面倒見のよさから事件解決に協力しつつ、だんだんと心を許していく過程は、うーん、見事なツンデレですね。田代裕彦のミステリだけではなく萌えもきちんと盛り込むあたり、ライトノベル作家としての手腕の確かさは知った次第であります。つか、キャラクターを立たせるのが普通に上手いよな。

ただ、ちょっと気になるところもないではない。三人称で講談調というライトノベルでは珍しい文体を採用しているのだけど、今ひとつ読み難い気がしてしまったのは残念だな。リズムがなかなか読み取れなくて最初は苦労しました。慣れれば大した事はないけど。この辺は好みの別れるところなのかも知れないかな。

細かいところには気になるところもあるけど、キャラ立ても上手いしミステリとしてもきちんと意外性のある結末を持ってきている(それも独自性のあるやり方で)あたり見事なミステリ作家ぶりである。萌えミステリ作家として是からの活躍に期待したいですね。

其弐、其参の感想は後日~。

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