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2005.03.09

『ノルウェイの森』読了

ノルウェイの森<上><下>』を読了しました。もの凄く面白かった。しかし、今ひとつ言いたい事がまとまらないので以下垂れ流し。

『羊を巡る冒険』から大分時間が経っているのせいか、全然違う印象を受けた。一言で言えば、すごく分かりやすい。『風の歌を聴け』の頃の分かる奴だけわかれ、とでも言うような若さは幾分後退し、テーマをかなり噛み砕いているような気がする。何より、主人公の喜怒哀楽がはっきりしていて感情移入がしやすいのもポイント。また、女性の描き方が魅力的なものになっていてその点も良い。それぞれが強烈な個性を持っていてキャラが立っている。エキセントリックすぎてギャルゲーのヒロインみたいだと思ったのはここだけの話にしておいてください。

それにしても、直子という存在は主人公にとってはどういうものだったのだろう?たぶん偶像的な存在であるのだろうが、およそ生きた人間に対する感情とはちょっと違うような気がする。主人公にとっては決して手の届かない、それでも求める事をやめられない存在なのだろう。そういえば、主人公が蛍を放って、その蛍に手を伸ばすというシーンがあったような気がするが、そのことは象徴的であるように思う。
直子の存在は、作中でもしばしば描写されている通り、極めて完結的(というのは変な表現だ)存在であり、明らかに主人公と一緒に生きていくことは不可能であるのだと思う(直子が主人公の枕元で裸になるシーンで、主人公は直子を人間とは思えず、彼女自身が一つの完成形であるように感じていたのはとても象徴的だと思った)。

彼女に対する感情は、高校時代に死んだ友人、キヅキとそれに付随する感情から生まれている。それは別離の悲しみであり、喪失に対する恐怖などがあるのかもしれない。それらについては、2人は極めてよく似た感情を持っており、お互いを必要としてのはその失われたものを引き止める作業であったのだといえるのかもしれない。しかし、結局は直子は死に、失われるべきものが無い世界へ向かってしまう。主人公はこの世界に踏みとどまりさらに失い続ける自分を抱え込んだまま、なお生きる事を決意している。だが、生きる事を決意したところで、自分がどのように生きたら良いのか、世界の中での自分の立ち位置というものを見出すことが出来ず、彼は直子を失ったことに対する空虚さとそれに伴う現実に対する認識力を失ったまま、彼を現実に引き止める存在である緑に語りかけ続けている。

どうにもならず、どうしようもない苦しみが底には存在しており、結局ハーピーエンドとはいえない終わりかただが、しかし、それでもなお生きる事をやめないというメッセージであると感じだ。例えそれが悪足掻きのようなものだとしても。

それにしても女性キャラクターの個性の強さには驚くしかない。直子は作品の関係上どうしても偶像的な立場で留まってしまうが(あるいはわざとか?羊シリーズで感じた空虚な女性観に通じる存在であるように感じられる)、その直子を助ける女性、レイコさんや、ともすれば現実から遊離しそうになる主人公を現実につなぎとめる役割を果たす緑など、本当に魅力的だ。この2人が、抽象的な空論に陥りがちな作品世界を地に足をついた物語にしていると感じた。

強烈にエキセントリックな緑も良いが、レイコさんが特に良い。出番こそ多くないものの、しわだらけの顔、やさしい声、ちょっと無骨な態度などがいきいきと描かれている。豪快な中にも人間的弱さと傷を抱え込み、それでも笑ってギターを引く彼女は、直子と主人公にとっては頼れる相手であると同時に大切な存在でもある。彼女はあえて言うなら村上春樹作品的には『案内人』の役回りのような気がするのだが、これまでのように役目を終えれば消えてしまうようなキャラクターではなく、彼女自身が自らの道を歩み続ける人格であって、失敗もするし間違った事もするが、それが彼女をさらに魅力的な存在にしているように思った。

ノルウェイの森は恋愛小説という捉えられ方をされる事が多いような気がするのだが、改めて読んでみて感じたことは、外部と自分を切り離して生きる事を選択した主人公が、その自己完結的な生き方に疑問を抱き、世界と交わろうという決意をするまでの話なのだろう、という事である。これまでは外部に開かれようとしながらも結局は同じ所に戻ってきてしまう循環を描いていた村上春樹が、それを破ろうとした作品なんじゃないかな、と思った。もっとも、この作品でも完全に破れたわけじゃないですけど。他者と繋がろうとしても結局どうしたらよいのだろうか?と問いかける形で終わっているように思う。ラストはもう一歩踏み込んで欲しいという気もしないでもないが、これはしょうがないのでしょうね…。

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