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2005.03.30

『楽園』読了

4101438110.09楽園
著:鈴木光司 (新潮文庫)
 
 
 
ああ、面白かった。 
『リング』シリーズでヒットを飛ばした鈴木光司のデビュー作です。第二回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞。
僕は、一応『リング』と『らせん』と『ループ』は一通り読んだのだけど、『ループ』のあまりのあんまりさにさすがにちょっとどうかと思った記憶がある。今思えば、あれはホラーとして期待をもたずに読めば結構面白い話だったような気がする。ちょっと勿体無い事をしたかな。

その後、ホラー作家として有名になりましたが、第一作目はどうやらファンタジーらしいです。読んだ感想としては、これはファンタジーというよりはラブストーリーじゃないかとも思うのですが。SFではない事は確かだけど、なんか冒険物見たいな雰囲気もあるしなあ(特に第二部)。こうしたジャンルレスな雰囲気は、いかにも日本ファンタジーノベル大賞らしい作品ではありますね。

これは一万年を越える『思い』についての物語である。引き裂かれた一組の男女の求め合う思いが、子孫達への血となり肉となって伝達され、子孫達はそのはるか過去の思いの残滓を抱いたまま、世界と戦い続ける。一万年というスパンで語られる物語は、人の思いはいかなる時間の流れの中でも不滅であり、時に形を変え姿が見えなくなろうともそれでも残るものがあるという「意志」の賛歌の物語でもあるのだと感じた。

また、根源の「思い」と平行して描かれる人々の姿もまた美しくて良かった。このあたり、一つの群像小説のような印象もあって、僅か三部で終わってしまうのが勿体無くなるぐらいだ。上中下巻組みにして、一万年にわたって営々と続く血族史を描いてくれたらなあと思わなくも無いがたぶんそれだと売れないのだろう。しょうがないか。

生きるとは戦いであるという闘争肯定の思想がすでに現れていたり、その後の作者らしいところはすでに現れているようで、なかなか興味深い。このあたりの主張が、作品に一本筋を通すような骨太さを与えている。その現実感覚と、神秘主義的と言っても良いイメージと相まって非常に爽快な読後感が感じられるのだと思う。大変面白かった。

ただ、一つだけこの作品に対して難点(と言うかいちゃもん)がある。<以下ネタバレ>「赤い鹿」のみを頼りに一万年以上の時間を超えて結びつきあった「思い」を、最終的に超自然的な力の存在によって回収させてしまうラストについては、それまでの登場人物たちの「思い」を否定してしまう(と言う言い方が悪ければ軽くしてしまう)ように感じがして気に入らなかった。人の思いをつなげるのは気が遠くなるほどの時間と幾つもの偶然とその時を生きた人々の人生であるはずなのに、最後にすべてを俯瞰する存在を匂わせることでそれがすべて何者かの意図であるように読めてしまう。超越的な存在そのものについては否定するつもりはないが(人間にはどうしようもない出来事があり、手の届かない世界があるという事は認めているつもりだ)、そういう存在はいちいち人間の営みには口出しするのではなく、はるか彼方から見守っていて欲しいと思うのは間違っているのだろうか。最後に鹿の痣が消え無かったなら、むしろ、時を越えた人の思いを感じる事が出来たと思う。<ここまで>趣味の問題といわれればそれまででありますが。ここらへんに微妙に宗教的な意図を感じてしまったのだが、たぶん深読みのしすぎなんだろうな。というか、僅か一行の描写でここまで文句をつけられる自分はかなりどうかしていると思う。

そういえば、『ループ』がああいう展開になったのは、この本を読めばすんなりと納得出来ますね。どちらかというと『楽園』系の物語だったのだから、全然ホラーじゃなかったのは当然といえば当然なんだなあ。

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コメント

今出張から生還!

それはさておき。

ネタバレ部分は、確かに今思い返すとそうかもね。
まぁ、それを読んだとき、俺は純真無垢で穢れを知らない大学生だったからさ!

投稿: みしまっち | 2005.04.01 00:16

お疲れさん。

まあ、これは趣味の問題ですからねえ。人によって様々に意見があるのは当然であるし、もしかしたら作者の意図は別にあるのかもしれないんで、僕が間違っているのかも知れないです。

ただ、どうも僕は超越的な存在って言うのが気に食わないタイプなので、その分、厳しく見てしまうのですね。

あと、大学生は関係ないだろ!(遅すぎたツッコミ)

投稿: 吉兆 | 2005.04.01 22:02

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