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2005.02.12

「ルカ 楽園の囚われ人たち」、読了

ルカ 楽園の囚われ人たち」(七飯宏隆 )を読了しました。面白かった。

電撃小説大賞大賞受賞作。
題材としては、SFによくある典型的な終末物に属するように思う。一般的には核戦争ごの地球とか、人類最後の人間など、多くのSF的テーマで語られてきたといって良い(とはいえ、具体的に題名を挙げろと言われると困るが)。しかし、終末物というのはその設定的な面から主人公の孤独感や、あるいは人類の愚かさといった方向に流れやすく(とりわけSFそのものではなく、映画やその周辺のジャンルだと、そうなりやすいような気がする)題材としてはなかなか難しい物だとも思う。安っぽいセンチメンタリズムに陥るのは、それも一つの方向性としては認めるものの安易に過ぎると感じる。

しかし、この作品ではその部分を上手く処理しているように感じた。この物語の語り手である主人公は都市の機械知性体であり(これは冒頭で明かされている)、登場人物たちの生活には直接的には関わっていない。人間とは異なる価値観を持つ彼の視点から語られていることで、ある程度の客観性を作り出しているように思う。

ところが物語はそこでは終わらない。中盤まで終末後の生活を描いた淡々と美しい描写が、ある瞬間から一転する。それまでの落差から、ここは人によっては肩透かしをくらう所かもしれない。だが、それこそがこの作品の重要なところなのだと思う。これは生まれ出ことが出来なかった主人公の誕生と成長、そして挫折の物語でもあったのである。
それが、作者のもつ終わり行く世界へのイメージと相まって、非常に柔らかで、その癖失われてゆく者たちへの悲しみと気高さを作り出していくように感じられる。

『壊れていくものにすら美を見出してしまうのが人間なのだ』というような文章があった。滅び行くものへの暖かな眼差し。消えていくものへの愛惜。生きていくことの悲しみ。何事にも常に終わりがあり、終わりはいつも悲しく、それでもなお記憶と思い出だけはいつまでも残る。そんな美しさがあるように感じた。

全体的に荒削りではあるが、現在、ライトノベルに氾濫するギャルゲー的な『泣ける』小説とは一線を隔した作品であると思う。

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受信: 2005.04.08 01:37

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